2019年6月16日日曜日

第221回:「極夜行」角幡 唯介

レーティング:★★★★★★★

以前ツアンポーの探検についてレビューした角幡(かくはた)さんの一冊です。2018年の本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞と大佛次郎賞を獲得した一冊です。角幡さんは、ノンフィクション分野、とりわけ探検分野(というものがあれば)では本当に伸び盛り、また円熟さも出してきている第一人者です。目が離せない作家といって良いと思います。その良さはオリジナリティのあふれる探検を自ら考え、自らの資金で実行し、それを作品にしているという点、また筆力も高く、ただの叙述ではなく、かといって過剰な叙情でもない良さがある点です。本書はまぎれもなく一線級の作品であり、こういう探検と著作を出せる人は日本にはごくわずかになっていると思います。

本作は、極夜でどこまでいけるかという題材を取り扱った一冊です。極夜とは耳慣れないことばですが、白夜の対義語で要すれば一日中太陽が昇らない状態を指します。北極圏のごく近い地域では白夜と極夜の両方が体験出来て、まさに異次元的というか宇宙的な体験ができるそうです。グリーンランドが舞台であり、角幡さんは4年間を掛けて実験的な探検から始まり、各種の技術習得、デポの設営など何度も現地に足を運びながら周到に準備をされます。その成果もあって極めて過酷な状況ながらツアンポーよりも死地をさまよう局面が少ないような感じですが、それでも毎日暗い中を犬と一緒に橇を引きながら何か月も氷点下30-40度といったなかを人力で歩きとおすのですから、大変なことです。当たり前ですが常人には全く想像もつかない世界です。

また、結婚、奥さんの出産といったライフイベントがうまく探検とマッチしてきて、ただの探検から人生や太陽といったものへの深い考察へと降りてきます。加えて今回特徴的なのは犬を同行させており、その犬との交流や協力、さらには抜き差しならない状況に陥った時の判断までつまびらかに開示されており、犬とと旅することについてもユニークな考察がなされた一冊になっています。

角幡さんは40歳ころまでに最高の探検をしたかった、これからは衰えが出てくるだろうということを書かれています。しかしながら、本書を読む限りむしろ経験を増して更に独創性のある探検ができるようになられている印象があります。次の本格的な探検がどういう形になるのかわかりませんが、大変期待しているところです。

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