2020年5月6日水曜日

第231回:『親鸞「四つの謎」を解く』 梅原 猛

レーティング:★★★★★★★

前回の投稿からかなり時間が空いてしまい、この間は仕事がやたら忙しく、またコロナ対応などでかなりイレギュラーなライフスタイルになっていました。本書は地元の図書館で借りてきたものですが、地元の図書館もかれこれ1ヵ月ほど完全に閉鎖されており、オンラインの予約受付なども停止しています。地元の本屋に5月4日に行ってきましたが、コロナ感染者数が減ってきていること、陽気が良いことを背景にかなりの人が立ち読みをしていました。ゆっくり本屋で本を見たいところではありますが、雑誌を1冊だけ買って早々に帰ってきました。

ニュースを見ていると東京を始めとして全国で外出自粛が浸透し、GWの人出はかつてないほどの少なさであったようです。感染者数は全国的に目に見えて減ってきていますが、早く学校もビジネスも正常化するとよいと思います。ただ、出張等は数か月は原則禁止になるでしょうし、かなりの影響が本年いっぱい、場合によっては来年にも残っていきそうです。

そんな中ちびちびと読んできたのが本書、前回に続いて親鸞モノです。梅原 猛さんの著作は本当に面白く本ブログでも何度もレビューしてきましたが、まだ読んだことのない一冊がたまたま図書館で目に入ったものです。文庫版で借りていますが平成29年5月、単行本としては2014年10月刊行ということですから、梅原さんの実質的な遺作に近い位置づけではないかと思います(梅原さんは2019年没)。『歎異抄』(唯円)を旧制中学4年から繰り返し、繰り返し読んでこられたという梅原さんの深い思索と取材が詰まった本であり、タイトルにあるとおり謎が設定され、それを解き明かしていく、という流れになっています。

ここからは若干のネタバレを含みますが4つの謎は、それぞれ次のものです。1.出家の謎、2.法然門下入門の謎、3.結婚の謎、4.悪の自覚の謎、というものでどれも大変興味深いものです。それぞれに対して一定の結論が出されていき、その答えが正しいのかどうかというのは色々と議論があるものと思います。個人的には4.は親族というか出自を理由とした答えになっていますが、本当にそれだけなのだろうかという感じがしています。いずれにせよ、一貫して流れているのは『正明伝』という浄土真宗やその研究者から一貫して偽書扱いされてきた伝記(覚如の長子である存覚)をベースに謎解きが展開され、その多くはとても説得力があり、親鸞の生きた時代の困難さや祈り、喜びや深い人間性が感じられてきて本当に味わい深い一作となっています。

また本書の成立には梅原さんがおかれていた最晩年という人生のステージも大きく寄与しています。特に、悪人正機説についてついて考察を深めていく最終部、「二種廻向」、すなわち「往相廻向」と「還相(げんそう)廻向」の下りはとても味わい深く、半分は著者の心の痛切な叫びを聞いているような切なさがあります。梅原さんの数多くの著作の中でもとりわけ素晴らしい1冊ではないかと思いました。