2019年5月12日日曜日

第217回:「HARD THINGS」ベン・ホロウィッツ

レーティング:★★★★★★☆

本書は起業家、CEOそして現在は業界トップクラスのVCの共同ヘッドを務めるベンさんの一冊です。2015年の日本での出版当初、非常に高い評価を受け(ベスト経営書2015に選定)た一冊であり記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。前半は実話ベースのストーリーが続きます。具体的には、著者が創業間もないネットスケープに入社するところ、その後マイクロソフトの大攻勢を受けてAOLに同社を売却、しばらくAOLで幹部として勤務。その後、ラウドクラウドという会社を1999年に創業(すでにクラウドの発想で会社を興しているのがすごいですね・・)、さらに事業は途中で苦境を何度も経験しながらIPOを実現、また紆余曲折がありHPに売却。その後、ベン自身は旧知のマーク・アンドリーセンとVCを立ち上げます。後半はこの一連のビジネス・キャリアを通じて得られた教訓を既存の経営学的な視点も織り交ぜながら、しかしあくまでも実際にどのようにCEOが会社創業者が苦労して、あらゆる辛酸をなめていくかを解説していきます。

本書の魅力は、スタートアップの創業者でしかわからないなんともいえないごたごたや大企業の大攻勢などが克明に描かれていることではないでしょうか。アイディアと(Tech系であれば)技術に賭けるという信念を武器に戦略の策定、人の採用、人事や組織の立ち上げ、製品開発、販売とありとあらゆる局面でCEOがリードしていくわけで、自分の人生や家族、そして社員のキャリアが左右される真剣ごとゆえの大きなプレッシャーがかかっていきます。その中での人間模様や難しさが遺憾なく描かれていて読み応えたっぷりです。面白いのは著者の皮肉がバリバリに聞いていながら、どこか冷静で突き放した感じもあり、とてもバランスが取れているところです。かなりの部分は、とにかく投げ出さない、諦めないことだと説きながら、他方で助言を得ることや頭で考えることも必要だと説いています。

記憶に残るフレーズがいくつもありましたが、備忘のためいくつか書き残しておきたいと思います。
「人でも物事でも、よく知る努力をしない限り、何も知ることはできない。知ることに近道はない。特に個人的な経験によって得られる知識に近道はない。努力なしの近道や手垢のついた常識に頼るくらいなら、何も知らない方がよほどましだ。」
「オーバルコースで時速360キロでレーシングカーを走らせるとき、もっとも重要なのは側壁ではなくコースそのものに意識を集中することだと教えられる。もしも側壁に意識を向けると、車は必ずそれに吸い寄せられ、衝突してしまう。コースに意識を集中すれば、車は自然とコースに沿って走る。」
「困難だが正しい決断をするたびに、人は少しずつ勇気を得る。逆に安易な間違った決断をするたびに、人は少しずつ臆病になっていく。」

2019年5月11日土曜日

第216回:「マネジャーの教科書」ハーバード・ビジネス・レビュー編集部(編)

レーティング:★★★★★★★

本書は部下を持つ立場になった新任マネジャーすべてに向けてまとめられたもので、HBRに掲載された論考11編をまとめたものです。本書はいわゆるビジネス・スクールの教授やコンサルタントが書いているものが大半であり、現実に立脚した、そうだよね、そういうことだよねという実感を伴う話が多く、とてもお勧めできます。また、自分の凝り固まった考え方、例えばAuthenticityが振る舞いにおいてとても重要である、といったコンセプトについてもそれを認めつつ、いかに視野の狭い考え方となりうるかを解説していたり(第7章)、非常に発見が多いのが特徴です。

面白いなと思うのは執筆陣はすべて外国人ですが、日本の会社の文脈でもまったく妥当性を失わず、普遍的であること。さらには結構前に書かれた論文もありますが、時代は変われどその有用性はほとんど変わらないなど、いつの時代も同じようなことを考え、悩み、組織人は生きていくのだなと感じられます。第2章の 「メンバーを変えずにチームで改革を進める法」などは非常に現実的な問いかけですし、第8章の「上司をマネジメントする」といった発想も重要でしょう(もっともこれは若い時から重要だと思いますが)。

本書は図書館で借りましたが、あまりに内容がよいので自分で買おうと思っています。久々の満点です。

2019年5月6日月曜日

第215回:「教養としてのワイン」渡辺 順子

レーティング:★★★★★★☆

今年2月の欧州EPA発効により、欧州産ワインが値下がりして改めて注目を浴びていますが、そんなワインに関する本です。著者の渡辺さんは米国の大手オークションであるクリスティーズのワイン部門でアジア人初のワインスペシャリストとして活躍され、現在は日本に戻られてワイン関連のビジネスを展開されているということです。なかなか煽りの混じったタイトルですが、個人的にはワインというものをまともに勉強したことがなかったので、とても面白い一冊です。

ワインといえば学生時代によく通ったチェーンの安い居酒屋で頼み、その水っぽさに閉口し、よいイメージがありませんでした。仕事を始めるとちゃんとしたお店でちゃんとしたワインを飲む機会もできてきて、またワインに精通した先輩も何人かおり、色々とご一緒する中で何となくこれは美味しいなとか、このブドウの種類だと好きだなというものが見えてきます。出張の機内で飲む時はワインの出自が書いてあったりして、これまた勉強になりました。日本ではワインはまだまだなんとなく気取った感じもありますが、スーパーではチリワインなどがここ10年ほど非常に安く(また安定した味で)手に入るようになり、アルパカやサンライズといったものが代表格としてよく見られます。ヨーロッパでもワインはピンキリですが、会食などでいただくことがあり、また大陸の一部の国では昼からワインを開ける習慣もあり、面白いなーと思いました。

そんななか全くバックグラウンドの勉強もなく、非常にぼんやりとした認識でいたところ、主要な地域のワイン造りの歴史、品種や産地ごとの特徴、新興ワインの来歴、さらには最新のトレンド(中国の爆買いと定着、ビジネス化)がほどよく分かりやすくまとめられているこの一冊はかなりお勧めです。一度網羅的にワインについて読んでおきたい方はぜひ。一度には頭に入らないので何度か読み返してみたいと思います。