2012年6月23日土曜日

第45回:「プレイバック」レイモンド・チャンドラー

レーティング:★★★★★★★

既に2作をレビューしているアメリカのハードボイルド作家であるレイモンド・チャンドラーの遺作です。1958年の作品、舞台は今までの作品ではロサンジェルスが中心だったのですが、今回はエスメラルダという仮想の町です。

今回も主人公のマーロウは、不本意ながらも難事件に巻き込まれていくのですが、突然ある人物を見つけ出し、居場所を特定してほしいという電話がかかってくるところから話が始まります。ネタばれしてはどうしようもないのですが、居場所を特定する対象の女性の抱える秘密が殆ど最後まで明かされず、長い小説ではありませんが、その秘密が強い求心力となってどんどん読み進めることができると思います。

私が読んだバージョンは、ハヤカワから出ている清水俊二氏の出ている訳(正直、少し不親切な訳)ですが、その後ろについている「あとがき」が秀逸です。全編に貫かれているやや暗い雰囲気、ホテルのロビーで語られる本筋にほとんど影響がないように思えるエピソード(内容はかなり強烈)など、いままでのチャンドラーのマーロウ・シリーズには見られないものが指摘されており、確かにそうだと非常に納得してしまいます。安易な解釈をするのは可能だと思いますが、あれこれ後講釈を垂れるよりは、素直にそういう側面をもった作品だということで楽しむことができると良いかと思います(念のため清水氏は安易な解釈も後講釈もしていません)。閉塞感と明るさが同居したなんとも魅力的な雰囲気を持つ作品です。

残るマーロウ・シリーズも読み進めたいと思います。アメリカのハードボイルドに関心ある方に、お勧めの一冊です。

2012年6月17日日曜日

第44回:「やさしくわかる会社税務」白土 英成(編著)

レーティング★★★☆☆☆☆

学生のころは一部の学校・学部の人を除いてほとんど関係がないのに、社会人になってみるとでわりと多くの業界・職種で馴染みが出てくるものの一つが、会計かと思います。帳簿を付ける、自社他社の財務諸表を見る、決算の仕事をするなど触れる機会が色々あります。一方、本書が対象とする税務は仕事上、触れるには触れるわけですが、体系だった研修や大学の授業も少なく、なかなか理解しがたい世界です。勤め人の多くが確定申告などする必要もないし、所得税、酒税など払う機会は多くてもなかなか学ぶ機会がない(そもそもあまり学ぶ必要も差し迫ってない)ものかと思います。
この本は1999年刊行とずいぶん古く、しかも税務の世界は税理士試験を受ける人がかなり頻繁にチェックしないといけないほど、制度や税率の改正が多い世界だそうなので、情報の細部は既に使えなくなっていると思いますが、会社税務の大枠について知るにはなかなか良い本でした。おそらく類書は(会計と違ってそこまで)多くはないと思いますが、すぐれたものがたくさんあるかと思います。
こういう所謂ハウツーというかノウハウ本の類は、評価するのが困難ですが、私のようなド初心者にも理解可能なレベルで最低限の知識は載せているという意味では十分かと思います。