2013年12月23日月曜日

第82回:「経営パワーの危機」三枝 匡

レーティング ★★★★★☆☆

前回レビューした一作と同じ三枝さんの本です。1994年の一冊ですのでそろそろ20年になりますが、色あせていないのはさすがとしか言いようがありません。前回の一作、今回の「経営パワーの危機」、下で触れる「戦略プロフェッショナル」は3部作になっており(直接のつながりはありませんが)、三枝さんの代表作となっています(もとい他の著作はそこまで多くありません)。

さて本書は、ある大企業のミドルが不振子会社に送り込まれるところからスタートします。30代の社員を子会社とはいえ、いきなり社長で行かせてくれるのは本書の題材のようなオーナー企業か商社くらいでしょうか。いまならベンチャーもあるかもしれません。背景にある考え方は、早めに会社全体を見回すマネージメントの仕事をさせることがなによりもの経営人材育成になるというものです。これをベースに本書のテーマは2つ、ミドルの成長譚と不振企業の再生です。いずれも面白いテーマだとおもいます。

今回も実例に即したもので随分リアルな話になっていますが、当然成功事例を取り上げているので、かなり劇的な展開です。三枝さんはトップダウンの威力をどの著作でも強調していて、社員の頑張りも大事だけれど、それを意味あるものにする経営の戦略性やモチベーションの鼓舞のほうがずっと大事だ(本当に変革を起こせる)と強調されています。もちろんトップだけが考えれば良いという短絡的な見方ではなく、再生の過程では社員一人一人の仕事の再生も伴わなければ実現しないということも描かれています。オペレーショナルな改善はボトムアップでもかなりの部分が可能ですが、戦略的な変更は確かにボトムアップでは時間がかかり過ぎますし、よっぽどリスクを取れる/取らざるを得ない環境でないと下から突き上げるインセンティブは低くなると思うので、確かに経営陣が大切というなのは首肯できます。家ではまず親がちゃんとしないと、ということと似ています(難しいですが)。

この一冊には随所に経営ノートというのが挟まれており、著者の経験から導き出された要諦がたくさん書かれていますが、またこれが含蓄のあるものばかりで面白いです。若手からシニアまで読める一冊で、前回レビューしたものより熱量としては少ないですが、それでも熱くなる内容です。

来年になってしまうと思いますが著者の処女作である「戦略プロフェッショナル」を読んでレビューしたいと思います。時系列が刊行順序からすっかり逆になってしまいましたが今から楽しみな一冊です。

11、12月とやや忙しくなってしまい読書ペースが落ちてますが、本年中にもう一冊くらいはレビューしたいと思います。今年は何冊読めたのかあまり自信はありませんが読んだ本のクオリティは相当高い一年間でした。時間が無くなれば、その分有効活用しようと考え流ようで、人生における制約も悪いことばかりではありませんね。