2012年4月23日月曜日

第41回:「企業再生の基礎知識」高木 新二郎

レーティング:★★★★☆☆☆

第38回でレビューした本の共著者の一人である高木新二郎氏の著作です。

新書らしく、平易な文章でトピックへの導入として幅広い領域をカバーしています。まず、財務上の倒産に関するキーワードが解説され、倒産についての基礎知識が続き、PEファンドやTAマネージャーといった比較的あらたなコンセプトについての説明、倒産法制の概観で締めくくられます。

本書が書かれたのは、竹中大臣(当時)が不良債権処理プログラムを発表した後の2003年です。当時はバブルの後遺症や長期の景気低迷によって多くの大企業が危機的な状況に陥っていたときであり、本書も不良債権処理プログラムに期待を示しつつ、PEファンド、TAマネージャー(外部からの傭兵)、DIPファイナンスといったものにかなり手放しの賛意表明がされています。それらが必ずしも上手くいったわけではないことは、周知のとおりですが、いずれにせよ2003年当時の時代背景を思い起こすと、本書で書かれていることの(当時の)切実さや高揚感が良く分かります。

なお、著者は弁護士であることからも自明ですが、本書の5チャプターのうち一番内容がコンパクトかつ読み応えがあるのは第5チャプターの「倒産法制の現在」です。本書が書かれてから10年弱が経過していますが、民事再生、会社更生を軸とした法制の形は今と変わっていませんので、現在でも読む価値ありかと思います。

2012年4月22日日曜日

第40回:「渋谷ではたらく社長の告白」藤田 晋

レーティング:★★★★☆☆☆

お陰様で第40回目となりました。さて、この本はサイバーエージェント創業者かつ社長である藤田氏の創業記録といったところです。生い立ち、学生時代、ベンチャーとの出会い、起業、上場そして結婚といったエピソードが包み隠さず語られており、ビジネスに関わるものとしてのみならず、一個人としても興味深い内容になっています。

この本を読んで思い出した一冊があります。同じく若くして経営者となったタリーズコーヒージャパンの松田康太氏の「すべては一杯のコーヒーから」で、こちらは2008年ころ読んで強烈な印象を受けました。丁度、普通の高校生が同年代の学生が出ている甲子園の試合を見てショックを受ける、そんな感じです。松田氏の本はタリーズのコーヒーを飲むというユーザーとしての経験があるので、親近感が湧いたのですが、実は藤田氏の本にも、というか藤田氏自身について個人的に親近感をもって読み進めました。

実はもう10年も以上前に一度だけ藤田氏の講演を聞いたことがあります。正確にはサイバーエージェントの採用説明会に出席、私は結構前の方の席に座っていて間近で藤田氏が語り始め、なぜインターネットか、なぜベンチャーかということを熱く語られたというものです。わりと狭い一室に椅子が並べられ、わけもわからず座っている学生たちの前で、相当忙しかったのでしょう、遅刻してきた藤田社長はこころなしかかなりやつれていて、白っぽい顔をしていた記憶がありますが、喋りは大変に流暢でメモなども一切見ずに熱弁をふるいました。今となってはその時の話の中身はあまり覚えていませんが、とにかく社長が若かったこと、そして採用説明会にも関わらず社長自らが熱弁を振るったことが印象に残っており、自身の就職活動を通じてかなり記憶に残った会社でした。

サイバーエージェントは今アメーバピグなどのサービスで人気を博しているよう(私は一度もやったことがありません)ですが、私が就職活動をしていた頃も出始めとはいえ、丁度ネットバブル華やかな頃だったので、日経新聞にも登場していました。その後、本書によればネットバブル崩壊などで会社売却を真剣に模索するなど、かなり厳しい状況に追い込まれたことがあるようですが、現在までこれだけの知名度と業績を残しているのは素直に称賛されていいものかと思います。

インターネット関係の会社でありながら、コアの技術というものがなく始めた割には、社長やその周りの構想力や事業化力、高いセールス能力などに支えられ、独自のポジションを獲得していった裏側には、苦悩と猛烈な努力があったというのはこの本から初めて知ることであり、藤田さんすごいなぁという感を新たにしました。最後に話を伺って10年以上経っていますが、まだまだ進化しているようです。応援したいと思います。