2019年12月31日火曜日

第228回:「親鸞」五木 寛之

レーティング:★★★★★☆☆

興味がありながら手が出ていなかった一冊です。厳密には上下巻2冊で後に「青春篇」とサブタイトルが付けられる親鸞三部作の第一作に当たるものです。世俗との交わり、弟たちを置いての出家、比叡山からの下山、そして流刑としての新潟への旅立ちまでが綴られます。

我ながら親鸞について改めてなにも知らないことに驚きつつ読みましたが、法然という素晴らしい師を得るものの、一度若いころに聞いた法然の話の良さはよくわからなかったり、色々な女性に思いを寄せたりと人間らしい親しみやすさを前面に出しつつ、修行に厳しい態度で妥協なく励み続ける若き日々が活写されています。また、黒面法師といった悪役が、歌舞伎のように分かりやすく描かれており、ここのあたりは賛否両論あると思いますが、活劇調でぐいぐい引き込まれていきます。さすが人気作家というところです。

親鸞は浄土真宗の宗祖とされており、阿弥陀如来に念仏を唱える、そのことだけで良いという法然の考えを継承して広めていきました。法然の考え方はシンプルですがとても影響力が強く、それゆえに複雑な教義や論理を力の源泉とする比叡山と鋭く対立して弾圧されていった過程は驚くばかりです。また読み進めていくと当時の末法といわれていた時代のとてつもない貧困や不衛生、医療の不在などが見えてきます。そして11月末に久々に行きましたが鴨川のあたりの壮絶な社会風景も浮かび上がってきます。色々な問題は現代にもあるわけですが、基本的な社会ニーズがいかに充足されてきたかを考えると、先人には感謝しないといけないと感じます。

現在、第二部を読んでおりこちらも大変面白いので読み終わったらレビューしていきたいと思います。

第227回:「小説帝銀事件」松本 清張

レーティング:★★★★★☆☆

またまた前回の投稿から2か月ほど空いてしまいました。この10月から年末までは仕事を始めて以来といってもよいかもしれないほど色々な案件が同時進行し、深夜残業ということはありませんでしたが、あらゆる方面に気を回さないといけずとても忙しかった実感があります。また、夏から時間のかかる趣味に取り組んでおり、そちらに会社帰りの電車の中の時間などを大きくとられています。そんな中ではありますが、3冊ほどストックがあるので、一部は年明けに掛かってしまいそうですが、順にレビューしていきたいと思います。

標題の作品は今や昭和の遠い昔の作家になってしまいましたが、大家である松本清張さんの作品です。帝銀事件というのは聞いたことはあったのですが、昭和23年1月26日に起きた帝国銀行の都内支店職員に対する毒薬投与の事件であり、大変衝撃的な内容となっています。本書ではGHQの影響が強く示唆される書き出しとなっていますが、本書を通読しても真相はよくわからず、捕まった方が真犯人であったのかどうかも含めて謎が多いところです。1点分からないのは、GHQの関与とは陰謀説的にはありそうですが、いかなる動機がありえたのかという点です。帝銀が占領政策に反対するようなことをしていたとは思えませんし、731部隊関係者が関与していたとしても積極的にGHQに協力する動機は思い浮かびません。松本さんはこの事件について「帝銀事件の謎」という本も書いているそうですので、そちも読んでみたいと思います。

例年本離れ、雑誌離れが叫ばれますが、確かに家計の使う本への消費額は実感としてもかなり減っている気がします。親の世代に比べて図書館や古本屋も充実していますし、簡単なコンテンツならネットで拾える(除く小説)ようになってきました。本を読むことが良いことだという単純な価値観は持っていませんが、電車やバスで本を読む人々の姿が本当に皆無になりつつあることは寂しい気がします。よい本があればしっかり書店で購入し、少しでも出版界の支えになりたいと思います。