2019年1月20日日曜日

第206回:「果断(隠蔽捜査2)」今野 敏

レーティング:★★★★★☆☆

昨年最後にレビューした第204回の隠蔽捜査の続編です。全く接点のない作品でしたが、年末に読んで面白かったので続編を図書館で借りてみました。キャリア警察官僚が大森警察署長として左遷されてきましたが、その後の活躍を描くものです。新米所長の戸惑いや葛藤をうまく描きつつも、地元の警察官の好奇の眼差しとプロ意識、更には本庁との関係などがぎっしり詰め込まれています。前作より文章がこなれているのか、すいすいと読めますし、ストーリーも割と明快に設定しているので楽しく1日で読むことができました。

なにげない強盗事件、緊急配備からストーリーは急展開します。前半であれ、もう終わり?という感じになりますが、そこからが面白い展開になって読みごたえがあります。隠蔽捜査は人気シリーズであるようで、更に第3巻も読んでみようと思っています。ちなみに本書は、山本周五郎賞と日本推理作家協会賞も受賞ということで、前作に続き、著者の出世作といえる作品です。

第205回:「ブッダの真理のことば、感興のことば」中村 元訳

レーティング:★★★★★★☆

岩波書店から出ている大古典が、本年一冊目のレビューです。中村 元さんは日本を代表する仏教学者ですが、大学時代にある授業をとった時、その先生のお師匠ということで、講義で何度も絶賛されていたのを今でも覚えています。岩波文庫での発刊は1976年、文庫なのに1,000円を超えています。

本書は教団化が進んでいない原始仏教の経典を邦訳したものであり、真理のことばは「ダンマパダ」(パーリ語)、感興のことばは「ウダーナヴァルガ」(同)を出店としており、翻訳に際しては漢語、英語などの後世の役も参考にしているとのことです。特に真理のことばはとても平明な短文で構成されていて、今の世の中でも十分我々の生き方を考えさせられるようなごく日常的な宗教色がほとんどない警句集といった趣です。感興のことばは、それに比較すれば少し長い感じがあり、もう少し論理構成 が長くなっている感じがします。

この原始仏教の良さは、その後の世俗化や高度に複雑化してしまった仏教の書物とは違い、もっと当時の人々の息遣いが聞こえるような切実さとシンプルさがあることです。ここ数年、日本や世界の古典を徐々に読もうとしているので、その意味で本書を読めたのはとても嬉しく、聖書やコーランも読んでみたいところです。本書は注釈を除けはそんなに長い本ではないので折に触れて取り出し、読む機会がありそうです。