2021年6月12日土曜日

第238回:「2030年すべてが「加速」する世界に備えよ」ピーター・ディアマンディス&スティーヴン・コトラー

レーティング:★★★★★★☆

かなり売れているという一冊。普段あまり読まない類の本ですが、世の中の変化の速度がかなり上がってきていて今後数十年続くと思っていたことがどんどんそうではなくなっていることを実感していて、何が起きているのかという興味から読みました。この本が言わんとしているところは、コンピューターの計算速度、ネットによる情報共有量やスピード、そして各種の工学、化学技術の深化で素材や製法について急速に高度化が進行しており、重要なことにはコンバージェンスといって情報技術を中心としてこれらの多様な領域が融合し、相互作用しながら今までにない技術が出来上がっているということ。

この影響は広く深いので、小売りで言えば店舗の位置づけが根本的に変わる、広告は高度にパーソナライズされる(星新一的世界)、エンターテイメントもARと結びついて個別化へ、また医療はロボットや人工臓器、寿命延長が普通のものになり、都市化がさらに進んでいくというもの。SFで読んでいたような世界が本当に広がりつつあり、それのスピードはさらに加速していくというのが著者たちの主張です。人間は本質的に変わることを嫌がる(怖がる)ので読者は嫌な気持ちになるかもしれないけれど、これらの深化は決してネガティブなものではなく、健康や安全の実現、環境問題への急速な対応など、様々なポジティブな結果をもたらすこと、さらには失われる仕事も多数あるけれど新たに作り出される仕事がそれを上回ることもしっかり説明されています。

昨今はコロナもあり、人間が世界の変化についていけていない気がしますが、これからはもっと激しく変化していくことを前提として認識しておけば、いちいち驚くことも落胆することも少なくなることと思うので、そのメリットを最大限生かしていくことを考えたいと思います。非常に説得力のある一冊ですし、売れている理由もよく分かりました。