2011年11月16日水曜日

第30回:「夜明けを待ちながら」五木 寛之

レーティング:★★★★★☆☆

ゆるく始めた本ブログですが、お陰様で第30回目のレビューに到達しました。飽きっぽい私がここまで続けられているのは、ひとえに本が好きということではありますが、こうしてつたないレビューを書き残すことが非常にポータブルな記録となっていることもあります。本のチョイスは、偶然であったり、またある程度意思を働かせたものも色々ですが、その時々になにを読んでなにを考えていたのか、少しわかる気がします。

今回は五木氏が1998年に出したエッセイです。多くの方がご覧になったことがあると思いますが、五木氏は多くのエッセイを特に90年代から立て続けに出しており、周りに聞いてみると賛否はかなり分かれますが、幾つかの本はベストセラーになるなど人気作家と言っていい存在になっています。私も記憶している限りではこれが3冊目(五木氏の著作のうち)だと思いますが、素直に良い本だと思います。

ラジオで、リスナーからの手紙に対して答えたものに手を入れたのが大半を占めるのですが、そのテーマも決して明るいものばかりではなく、むしろヘビーなものが大半です。それらに対して五木氏が迷いながら、殆どが答えにはなっていないのですが(当然ですが)話をしていきます。よくよく考えると人生の相談事というのは大抵答えはなくて、それをどうみるか、どう考えるかということしかできない気もしますが、答えがなくても相談者をぐっと受け止め、支え、静かに鼓舞することはできるように思えます。

他の作家と同様に、そして五木氏自身が認めているように、どのエッセイも同じようなネタやものの見方が繰り返されますが、別にまたかという感じもせず、年が離れているからか割と素直に読めます。書かれたのは、1998年はバブルが崩壊し、企業倒産やリストラも増えたそれなりに暗い話題の多かった年と記憶していますが、その時代から今があまり変わっていない印象を(本書を通じて)受けます。また、ポジティブ思考や強者生存的なテーゼに真っ向から反論をしており、勝間和代氏的な世界観の対極を行っていることろは、非常に読んでいて面白いものがあります。

本を季節で分類すれば、秋か冬のものですので、この季節にまったり読むには面白いと思います。ただし、受験を控えている等、テンションを上げていかないと行かない人には不向きですので、春休みあたりに読んでください。

2011年11月13日日曜日

第29回:「リスクは金なり」黒木 亮

レーティング:★★★☆☆☆☆

たままた時間があり、本屋でぶらぶらと文庫本を眺めていたところ、見つけて購入しました。好きな作家であり、このブログでも何度か著作を紹介してる黒木氏のエッセー集です。私が知る限り、氏のエッセー集はこれが初めてではないかと思われ(そもそもエッセーを積極的に書いているわけではないようです)、その意味では貴重なのですが、残念ながらレーティングはかなり辛めにつけさせてもらいました。

気に入らない理由をあまり挙げるのもお行儀が良くありませんが、自分でレーティングを付けている以上、一つの見方としてご紹介したいと思います。

①多くのエッセーが短すぎて、読みごたえがない:短いから優れていないというわけではないのですが、なかには2ページといった極めて短いものがかなりあります。すらすら読めるといえばそうなのですが、わざわざ本に収録するほどか・・というものも多数あります。
②タイトルが大げさすぎる:内容は多岐に亘っていて楽しいのですが(例えば外国のお酒の話)、その反面このタイトルのネーミングが示唆するものと相当にズレがあります。ついでに言えば、帯にある「なりたい自分になるための仕事術、人間術」に至っては???という感じがします。
③既存の著作と重複する内容が少なからずある:エッセイは古いもので2000年ころからのものを含んでいますが、時々の取材ノート的な内容があり、それらは概ね今までの作品に書き込まれているもので、新味がありません。

内容は楽しいものや味のあるものもありますが、熱心に読んでいるファンとしては(①、③はそれが故にかもしれませんが)全体としてがっかりするものでした。

2011年11月3日木曜日

第28回:「日出る国の工場」村上 春樹/安西 水丸

レーティング:★★★★☆☆☆

皆さんは一度読んだ本について、読んだこと自体を思い出せなくなることってあるのでしょうか?私は、大体の本は内容は覚えていなくとも、読んだという事実については思い出せることが殆どなのですが、たまにどうしても、「読んだ気がするんだけどな・・・でもちょっと読んでも、読んだかどうか思い出せない・・・」という本があります。第15回でレビューした本(こちらは再読の比較的早い段階で読んだことを思い出しました)もそうですし、今回レビューする本も同様です。今回は、なんと最終章に来るまで、以前読んだことを確信をもって思い出すことができませんでした。

そもそもある本を読んだことが思い出せないというのは、よっぽど適当に読んでいたか、内容に記憶に引っかかるようなインパクトなり意外性が相当欠如していた、ということかと思います。これを読んだのはもう10年ほど前ということまで思い出しましたので、どっちが(もしくは両方が)理由かいまや良く分かりませんが、どちらかというと後者の理由の気がします。

ところで本の内容は、著者の二人が様々な工場見学を行い、雑感を記すというゆるいものです。「ゆるい」のですが、別に批判的にそういっているわけではなく、ユーモアもペーソスもあり、そして1980年代の日本の戦後経済成長の最高潮の興奮も感じられる本になっています。大学生だった当時は工場見学など殆どしたこともなく(小学校で楽しみにしていた某大手製パン会社の工場見学は、風邪で欠席)、余り面白さがわからなかったのですが、社会人になって各種の工場等にお邪魔をする機会に恵まれたため、今読んでみると面白い内容となっていました。

軽く読める本で、ちゃんと時間が取れるならば1日で十分と思われます。旅行の移動時間などリラックスして読めるときにどうでしょうか。また、安西さんの絵が(いつもながら)洒脱で良い感じです。面白いのは、CD工場(当時最先端バリバリであったCDがもはや絶滅危惧種とはいかないまでも、劣勢に立っているのは時代の流れの速さを感じます)と牧場でしょうか。経済動物というコンセプトが出てきますが、なかなかにシビアで牛乳もありがたく飲まないといけないなと感じるかもしれません。いずれにせよ、ひっさびさの再読ですが、それなりに楽しかったです。そこそこのお勧めです。