2014年3月23日日曜日

第90回:「フラニーとズーイ」サリンジャー(村上春樹訳)

レーティング:★★★☆☆☆☆

村上春樹氏翻訳の文庫新刊が出るということを聞き、ファン故の愚かさで発売直後に買ってしまいました。『ライ麦畑でつかまえて』はすごく好きというレベルではありませんが、それなりに好きだったのですが、本作品はまったく良さが分からず閉口してしまいました。おそらく作者、翻訳者をブラインドにして読み始めたら、半分読まずにギブしてしまっていたと思います。

村上氏は本書を若いころ(といっても10代だそうですが)に読んで良さがわからなかったけど、近年再読してその良さに惹かれたそうです。私は既に10代とはほどとおいところに来ていますが、いつか再読したらその良さが分かるようになるのでしょうか。手短になぜ閉口したかを書くと、まず文章がやたらに装飾的でまわりくどく、文意がつかみにくい。主題がわからず、かといってディティールや雰囲気にも没入することができない、というものです。何度か読むのをやめようかと思いましたが、単純にもったいない、また後半良くなるのではないかという淡い期待で読み進めました。

近年読書の大漁状態が続いていたので、小休止的な意味でこういう期待外れに終わるものがあってよかったのかもしれません(とせめて前向きに考えてみます。

2014年3月16日日曜日

第89回:「戦略プロフェッショナル(増補改訂版)」三枝 匡

レーティング:★★★★★★★

第81、82回で三枝さん三部作のうち残りの2冊をレビューしています。いずれも素晴らしいものですが、残る1作の本作も期待を裏切らないものでした。今回ご紹介するバージョンは、すでに文庫化(2002年)されたオリジナルの増補版であり、著者へのインタビューや各種の解説が追記された一冊です。

3部作すべて同様の構成であり、実際にあったビジネスストーリーをほぼそのまま使いながら、解説を挟んで経営とは、戦略とは、その中でのリーダーシップとはといった話が展開されます。どれも三枝さんの実業経験を踏まえて書かれており、今回も納得度が極めて高い上にプロローグ、エピローグおよびインタビューで著者自身の体験を余すことなく書いており、大げさかもしれませんが感動すらする内容です。また、ネタバレになるので控えますが、本書では実際のエピソードの裏側が明かされ、三枝氏の来歴も本人の口からかなり詳細に語られます。氏も語られているとおり、増補版を出したのは次世代育成に力を入れている三枝さんにとって非常に意味のある仕事であったと思われ、その意気に感じるものがあります。

記号的に書くとよくいるビジネスエリートかという感じになってしまいますが、三枝さんは三井石油化学に入社、その後、BCG東京オフィスの日本人初採用、同社ボストンオフィス勤務、スタンフォードMBA、米国企業に就職し、同社と某財閥系化学会社の合弁会社を経営(30前半で代表取締役)、製薬企業系の不振企業の再建、ベンチャーキャピタルの運営、個人事務所開設からコンサルティングへの復帰、東証一部上場企業の社長(現在に至る)となっています。ご本人も書かれていますが、この一つ一つにかなり壮絶なエピソードがあり、どれも密度が濃く、特に留学のくだりなどそのまま小説になりそうな話です。

タイトルからもそうですが、面白いのは経営のプロはどうやって育てられるのかについて、かなり公式化して要件を明示しているところです。豊富な経験と年数の積み上げによりここまではっきりと示せるのであり、相当の自信をもたれていることが伺えます。三枝さんの凄みは理論を理解し、実践しつつ、さらに高いレベルで結果を出し続けていることだとおもいますが、その説得力たるや経営学者の頭でっかちなものではなく、またたたき上げの根性論だけに偏る経営者のものとも大きく離れています。面白いですし、励まされる一冊です。この分野に関心のある人に素直にお勧めです。