2017年7月17日月曜日

第172回:「ツンドラ・サバイバル」服部 文祥

レーティング:★★★★★★★

前回レビューに続いて、今ツボにはまっている服部さんの一作です。服部さんにとっておそらく大変うれしい一作になったであろう本書は、第4回「梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞しています。ちなみにその前の4回の受賞者は以下の通りです。残念ながらどれも読んだことがありませんが、どれもものすごく面白そうです。

第1回(平成23年度)角幡唯介 著   空白の五マイル /集英社
第2回(平成25年度)中村保 著   最後の辺境 チベットのアルプス /東京新聞
第3回(平成26年度)高野秀行 著   謎の独立国家ソマリランド /本の雑誌社
第4回(平成27年度)中村哲 著   天、共に在り-アフガニスタン三十年の闘い /NHK出版

さて、この作品は前半は日本のサバイバル登山(北海道、四国など)、後半は文字通り北極圏に近いツンドラでのサバイバル紀行です。どちらもテレビの取材が一部入っており、特に後半(ツンドラ)は、NHKの番組とするために1か月ほどロケをした時間もお金も手間も掛かっているものです。日本のパートではまだ狩猟を始めたばかり?とお思しき服部さんがいろいろな山を歩きながら、主に鹿、時としてエゾライチョウなどを狩りながら進んでいきます。しかしながら、途中では沢登りの中で墜落し(取材同行)、瀕死の重傷を負いながら下山する場面もあります。また、家族にも行き先を告げづに山に入り、山で死ぬのは祝福である(というような趣旨)の発言もあり、かなり突き詰めた世界観を感じさせる部分があります。

後半は、偶然の出会い(ミーシャ)から白系ロシア人と現地トナカイ遊牧民との相克など、とても読ませる紀行文になっています。このあたりの文章力は、単にサバイバル登山家の枠を大きく超えており、梅棹賞の受賞も十分にうなづける文化人類学的な内容になっています。とても面白く、第171回でレビューした『獲物山』より(趣向がそもそも違う本ですが)とっつきやすく読ませる内容となっており、強くお勧めです。

2017年7月16日日曜日

第171回:「獲物山」服部 文祥

レーティング:★★★★★★☆

服部さんは、いま一番面白いのではないかという方の一人です。私が知ったのは昨年だったか2年前くらいにある登山雑誌で目にしてからですが、その前から相当有名な方であり、K2(パキスタンの最高峰、8611M)を登頂しており、日本屈指のアルパインクライマーでありました。しかしながらその後、装備(人工物)を使って上る現代的な登山に疑問を感じ、ごく最小限のもの(米、調味料、鍋、釣り竿、猟銃等)だけをもって、山で狩猟、最終をしながら登山を行うとてもレアな『サバイバル登山』という分野を実践されています。私は読んでいませんが、雑誌『岳人』(モンベルが運営)の編集部に勤務されてながら、いろいろな媒体に寄稿したりテレビにも出演されています。

本書は、雑誌「フィールダー」に連載された記事を1冊にまとめたもので、とてもきれいなビジュアルと構成が特徴的です。どうしても狩猟の話が大きく、仕留めた動物(主に鹿)の画像が結構出てくるので、苦手な人はあまり手に取らない方がよいかもしれません。いろいろ驚きがあるのですが、この人は野人のような人で、野生の植物、動物をなんでもタブーなしに食事にしていきます。自衛隊のレンジャー訓練なども楽勝でこなせそうですが、そのタフさには刮目します。また、単に狩猟や登山をしているわけではなく、とても思索的、哲学的な一面が見られます。そこが単なる野人としての本ではない深みや魅力をだしています。生身の動物に手をかけ、生きること、食べることを探っていく言葉には、とても強い説得力やイメージの喚起力があります。

服部さんの本をもう1冊読んでいますが、サバイバル登山は手探りで進化を遂げているようです。とても面白く、しばらく服部さんの本を一連読み進めていきたいと思います。なお、作家としても評価されており、作品「ツンドラ・サバイバル」にて第5回梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞を受賞されています。とにかく型破りであり、少しでも関心を持たれた方は一読をお勧めします。

2017年7月1日土曜日

第170回:「カエルの楽園」百田 尚樹

レーティング:★★★★☆☆☆

いわゆる寓話形式をとって、現代の日本と東アジア情勢を題材にした一冊です。要は憲法九条を押し付けられ、それを不磨の大典として墨守し、変化する国際情勢についていけない日本が最後は中国に蹂躙されるというストーリーです。メッセージとしては、自分たちの国は適切な防衛力を自らの責任で確保して、自らの手で守らないといけませんよという警世の書となっています。

話としては筋は通っており、中長期の日本の危機を描いていますが、とくに寓話という形をとる必然性がなく、作品としての完成度もよくわかりませんでした。主流メディアからはかなり無視を決め込まれているようですが、一部の方々にはかなり受けているようです。