2011年7月30日土曜日

第19回:「私を離さないで」 カズオ イシグロ

レーティング:★★★★★☆☆

イギリスのブッカー賞作家、ということで日本で随分有名なカズオ イシグロさんの長編小説です。私はもう10年以上前になりますが、カズオ イシグロの「日の名残り」という作品の映画(アンソニー・ホプキンス主演)を見て、作者を知りました。それから随分と時間が経ちましたが、(私にとって)二つ目の作品として読んでみました。

各所のレビューで書かれている通り、ネタばれのリスクが高いのでもってまわったような書き方しかできませんが、最後の1/3でこの小説の凄さをじわじわ感じました。最初は、なにか現実感を失ったような、しかし凄くリアルな子供たちの生活が描かれていきます。正直言って、前半は進みが遅く、繰り返される会話ややりとりがなんのためにあるのか良く分からず、もったいぶっちゃってさ、と若干がっかりしながら読み進みました。

しかし、後半(の後半)に急展開して、今まで語られなかったことがより鮮明になり、息苦しいような展開になっていきます。設定されたシチュエーションはまったく凡庸ではないのですが、実は不変的で切実なテーマについての話だということに気づかされます。

作品としては重苦しく、密度が濃いので読むのにはパワーが必要でした。仕事の後、電車に乗ってさあ読むか、という気になかなかなりません。それだけきちんと向き合うことが必要な良い作品なのかもしれませんが、なかなかにヘビーです。カズオ イシグロの作品は沢山読んでいないものがあり、追って読んでいきたいと思います。

2011年7月16日土曜日

第18回:「会社再建」湯谷昇羊

レーティング:★★★☆☆☆☆

サブタイトルは、「福岡を燃えさせた男 高塚 猛の軌跡」です。高校を卒業しリクルートに入社、22歳で課長となり、29歳で盛岡のあるホテルの再建のため総支配人として送り込まれ、見事再建をし、その後請われて福岡ドーム、シーホークホテル&リゾーツ及び福岡ダイエーホークス社長となった方で、週刊ダイヤモンドの連載を単行本化したものです。

ダイエーといえば、小さい頃10年ほど住んだ町の中心部に大きな店舗があったことを良く覚えています。圧倒的に大きなスーパーで、おもちゃ売り場やカセットテープ、CDを売る店やドムドム(ファストフード、Webで調べるとまだあるようです)なんかがあって買い物のみならずちょっと遊べる要素もあり、よく家族でいったものでした。そのダイエーは私にとって大きな存在だったのですが、その後、業績は低迷していきました。2000年前後のダイエーにとって「お荷物」と言われてしまった、いわゆる「福岡3点セット」といわれる上記の3社が、高塚氏が再建に取り組んだ対象です。

福岡に縁もゆかりもなく、既に盛岡で財界人として経営者として十分な実績と名声を得ていた高塚氏がこの3点を引き受けた勇気には敬服します。そして、独特の販促キャンペーン、人事制度の大幅な柔軟化、3点セットの有機的な活用等により、短期間に営業利益化(ただし本書のなかでは経常利益計上はならず)していきます。数字のみならず、経営者として従業員の行動を変えていった点も本書によってつまびらかにされており、ホテル業、スポーツビジネス等に関心ある方には面白い内容かと思います。

他方、残念なことであり、ビジネス雑誌や経営者列伝にたまに起きることですが、ある時期を見て名経営者と褒めあげられた人が様々な毀誉褒貶にさらされていく好例になっています。高塚氏は、Wikiに詳細が書かれていますが、その後ダイエーを去っていきます。進めた改革が急進的でありすぎたのか、会社の再建をやりきれなかったのか、その過程で恨みを買ったのか慢心が過ぎたのか、そのあたりの経緯は分かりませんが複雑な気持ちになります。(本書は、出版のタイミングによるものですが、3点セット再建の軌跡のみが綴られており、後日譚は一切ありません。)