2021年8月9日月曜日

第240回:「仕事と人生」西川 善文

レーティング:★★★★★☆☆

有名な経済界の方々が書く本は多数あり、そのうち少なくない冊数を読んできましたが、日本の経営者の書いたもので読みごたえがあったのが西川さんでした。昨年の9月に亡くなられてしまいましたが、若き日の住友銀行でのエピソード、バブルの後処理に奔走する姿、新たな時代の三井住友銀行の経営、その後の郵政などへのチャレンジと本当に波乱に満ちたキャリアを送られ、そのどれもが容易ではなく、成功しても何らかの批判が付きまとう非常に厄介なものだったと思います。旧住友銀行についてはほかにも複数の方々が本を書かれていますが、どれもバブルやその前の時代を描いたものが生き生きとしてそれだけ活気のある銀行だったんだろうなと感じることがあります。

今回の一冊は西川さんがキャリアを振り返りながら、新人時代の思い出、その後身に着けていったスキル、忘れてはいけない心構えなどを非常に分かりやすく説いています。正直に言えば西川さんの以前の著作と重複する部分はそれなりにありますが、とても短く簡潔にまとまっており、若い人が西川ワールドに入っていく格好の一冊になるものと思われます。それにしても中身はどれも納得の行くもので、なにより素晴らしいのは偉ぶることもなく、奢ることもなく、淡々と自分はこのようにやってきて、こういうことが役に立ったと書いていることです。志願しての米国長期調査などはあったものの海外在住や海外留学といったご経験はなかったと思いますが、考え方はとても合理的で無駄がなく明晰です。

そしてなにより惹かれるのはその気骨です。自分はやらねばならないことをやる、正しいと思ったことをやるという根本があり、変に空気を読んでこうしろとか出世のためにはこんなこともしてきたというド根性立身みたいなエピソードは少ないです。もちろん気遣いも配慮も人一倍あった方だったんだと思いますが、そういう面はあえてかもしれませんがほとんど触れていません。しかし、部下たちからいかに慕われていたか垣間見えるエピソードもあり心が温まります。20代、30代にお勧めの一冊です。