2017年9月16日土曜日

第175回:「野村證券第2事業法人部」横尾 宣政

レーティング:★★★★★★☆

かなり面白い一冊でした。著者のお名前にピンと来た方もいらっしゃるかと思いますが、そうです、野村證券出身で退職してからずいぶん経って、オリンパスの粉飾に関与したということで逮捕されてしまった方です。大きく分けて2部構成になっており、第1~7章が野村證券在籍時代、第8~11章がポスト野村時代です。

前半は青春活劇のようでとても臨場感や高揚感があって面白い一冊です。金沢支店を皮切りに、フィーを稼ぐことに邁進し、リテールから始めて、花形の事業法人部に乗り込みます。そこでも末席であったにもかかわらず、人の何倍も努力し、執念と度胸をもって顧客を開拓していきます。ここらへんは多少盛っている部分はあろうかと思いますが、すこぶる詳細かつ具体的な内容で、著者の証券マンとしての凄さをまざまざと感じさせます。しかし、80年代、90年代の証券会社というのは評判が悪かったですが、本当に良くも悪くもなんでもありだったんだということがよくわかりません。バブル崩壊後、証券会社や証券業界は大改革につぐ大改革を行いましたが、いまの株式や資本市場がいかに正常化されてきたのかがよくわかります。そりゃ株をやる人が日本で少ないよな、と実感します。

後半は野村証券を惜しまれながら退社し、ベンチャー投資や投資先の経営に当たる話です。しかし野村の看板は大きく、資本が限られている中で事業はなかなかうまくいかないようです。そこで昔のつてもあり、オリンパスとの接点が出てきます。著者は一貫してオリンパスの関係の関与を否定しており、一定の説得力は感じますが、前半で見せたリスク感度の高さ、真っ当かつ執拗な思考力がオリンパス関連ではすっぽり欠落している部分が、やや気にかかります。当然こういうものだとおもっていた、自分は細かいところにはタッチせず、部下に任せていた、自分が粉飾スキームを考えるのであればもっとうまくやった、など本当にそうなんだろうかという部分がいくつかあります。裁判はまだ続いているので、司法が結論を出す話ではありますが。

前半の生き生きした感じと、後半の苦難が対照的であり、人生論として読んでもとても味わい深い一冊です。証券会社や業界に関心がある方にはお勧めです。