2015年12月27日日曜日

第134回:「許す力 大人の流儀4」伊集院 静

レーティング:★★★★☆☆

このところしきりにレビューしている伊集院さんのエッセーです。最新刊(5)は図書館での予約待ちで、とても人気があるようなので少し来るまでに時間がかかりそうです。それはそうと、この作品は過去に出てきた話の繰り返しが複数あり、さらに標題となっている許す力についてもパワーが不足していて読みどころがありません。伊集院さんが小さいころにいわれなき差別を受けたくだりなどは、もっと掘り下げればオリジナリティと迫真さが出てくると思うのですが、あまり触れたくないのか詳しく記述されるわけでもありません。

こういうエッセーは、長編と違って作家がコンスタントに書きやすいものですし、これだけのヒットシリーズであれば雑誌側もたとえ惰性になったとしても手放したくないでしょうから、相当程度続くのではないでしょうか。しかし私が一気に1~4まで読んでしまったせいか、結構飽きが来ます。1週間に一回しかない雑誌の連載を5年分くらい一気に読んできたので、そういう評価は作品の読み方として適切ではないかもしれませんが・・・。

おそらく本作品が今年中にレビューする最後の一冊になるかと思います(もしかしたらもう一冊読み終わるかも)。もう5年もちょっとづつアップしていると、いつの間にかどのページであれアクセスが増えてくるもので(引っかかる作品が増えるので当然ですが)、私の拙いポストで少しでも役に立っているとよいのですが。標題にもあるとおり、どこまでいっても個人の読書記録というのがメインですので、作品含めて偏っていると思いますが。

関係ないのですが、DVDはほとんど借りないのですが、たまたま蔦屋で目に入ったクリント・イーストウッドの最後の主演作品「グラントリノ」を借りて昨日見ました。正直言ってとても心動かされる素晴らしい作品でした。いろいろな複雑さや要素が含まれていますが、主人公の男気に打たれます。人生万事塞翁が馬、という感じのする作品です。

2015年12月20日日曜日

第133回:「別れる力 大人の流儀3」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

伊集院さんの三冊目です。書評としては前二冊とかなり似通った内容になってしまうのですが、引き続き著者のいろいろな思いが詰まっています。故・夏目雅子さんとの死別もそうですが、いねむり先生との別れなど、様々な人生における別れにフォーカスしていますが、もともとが雑誌の連載ですので、それ以外の普通のコンテンツもたくさんあります。

三冊目ともなるとやや感想が薄れてくるのですが、この本の時期の伊集院さんは東日本大震災の後ということもあり、少し内省的な気がします。沈んでいる気がします。伊集院さんに限らず、2011年はもとより2012年も2013年も日本全体としてそういう傾向がありましたが・・・。しかしこのシリーズはネット上での評判を見ていると、結構怒りというか反感の声が上がっている(まあよほどの感慨を持った人でないとわざわざアマゾンに書き込んだりしないものでしょうが)ものの、とても売れ行きの良いシリーズのようで、伊集院さんの代表作ともなりつつある感じがします。

さて、年が明けると間もなく成人式ですね。毎年成人の日の朝刊に乗せられる伊集院さんの短文を楽しみにしているのですが、来年はどんな内容になるのでしょうか?

第132回:「続・大人の流儀」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

前回レビューした伊集院さんエッセイ・シリーズの2冊目です。実はこの一冊から読みだしたのですが(2→3→1と読みました)、かなり面白い一冊でした。エッセイはこうこないとというかなりのこだわりが込められており、若い職人は休みなどない(オフィスワーカーでもこれはある程度そうだと思いますが)、震災後に花見を自粛するのは愚の骨頂(本書は2011年12月刊行)、どんな手紙が心を動かすのかなど、興味深いトピックが並びます。

本書のハイライトは残念ですが東日本大震災のような気がします。連載中にあの地震が起きて、伊集院さんは仙台にお住まいということで衝撃的な揺れに遭遇したことが描かれています。安易に情緒的になってはいませんが、そのさなかにいた物書きとして、住民の一人としてとても哀切な文章が見られます。これとは直接関係ありませんが、どういうきっかけか、元巨人の松井選手とも相当仲が良いようです。かなりの顔の広さですね・・・。

イメージを持っていただくために、アマゾンから拝借したタイトル(抜粋)を添付します。ご興味持たれた方は年末年始の帰省や移動のお供にいかがでしょうか?

・鮨屋に子供を連れていくな
・若い修業の身がなぜ休む?
・イイ人はなぜか皆貧乏である
・花見を自粛するのは間違っている
・高収入のスポーツ選手がそんなに偉いか
・若い時期にだけ出会える恩人がいる
・どんな手紙がこころを動かすのか
・大人が口にすべきではない言葉がある
・世間の人の、当たり前のことに意味がある
・男は死に際が肝心だ 他

なお、ご本人は気を付けているということですが、前回レビューした一冊とほぼ同じような話が出てくる場面がいくつかあるのが少し残念です。引き続き、続編をレビューしていきます。

2015年12月16日水曜日

第131回:「大人の流儀」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

今年初めて読んだ作家の一人が標題の伊集院さんです。第116回に伊集院さんの「いねむり先生」をレビューしており、その時に出会いについて書いていますので、もしご興味ある方はそちらも参照頂ければと思いますが、今回は小説ではなくエッセーです。これが連載されている週刊現代は読まないので、本になるまで知りませんでしたが、かなり人気のあるエッセーシリーズのようで、本書は2009年~2011年1月まで連載されたものを一冊にしています。

小説でのやさしい語り口とは異なり、このエッセイの面白いところは伊集院さんのこだわりが満載で、包み隠さず語られているところです。それでこそエッセイなわけですが、悪く言えば独断と偏見に溢れており、私はとても好きですが、人によってはかなり不快になるかもしれません。女性や若い方などはかなりむっとされるような記述もそれなりにあります。実際、女子供は寿司屋にいくな(私が言っているわけではなく、本書にほぼそのまま書かれています)といった章については、かなり議論が起きたようです。

内容についてはさらりと読めるものでして、実は2冊目、3冊目も既に読んだ(既に本日時点で5冊目が発売されています)のですが、いずれも2時間くらいあれば十分です。本書は色々と面白い話がでているのですが、銀座の料理屋の話などは個人的に殆ど(一部の飲み屋を除いて)銀座にご飯を食べに行くことがないので興味深く読みました。湯島、上野あたりも良く出てきます。

しかしなんといっても本書のハイライトは、巻末に付されている「愛する人との別れ」です。ご存知の方も多いかもしれませんが、伊集院さんは故・夏目 雅子さんと結婚・死別されています。その時の出会いから、奥様の病死、その後の25年が淡々とした筆致で語られ、この淡々とした中ににじみ出る故人への愛情や生き続ける悲哀に胸を打たれます。この章については、偉そうにこれ以上コメントするのも野暮というものですが、ぜひ一度読んでいただきたいと思う名文です。

2015年12月7日月曜日

第130回:「女のいない男たち」村上 春樹

レーティング:★★★★★☆☆

2014年4月刊行の村上さんの短編集です。正直に言って相当のハルキストだった私としてはそこまで期待していなかったのですが、期待水準とほぼ同様の一冊で良くも悪くも驚きがありませんでした。大作家に対して大変上から目線で失礼ですが、ファンであるが故の高慢としてお許しください・・。
まず私の理解では、村上さんは初期の短編が素晴らしく、本当に何度も再読したものですが、阪神大震災を題材とした『神の子どもたちはみな踊る』から極端に短編の質が落ちた感じがしています。もちろん凡百の作家からみたら十分な水準だとは思いますが、初期の神がかり的な切なさや悲しさ、不思議さは(ストーリーがたとえ似ていても)再現できていません。本作もその意味では予想どおりでした。

さて、作品は様々なタイミングで発表された以下のものです。

1 ドライブ・マイ・カー
2 イエスタデイ
3 独立器官
4 シェエラザード
5 木野
6 女のいない男たち

個人的な短い感想としては、木野が雰囲気が良く感じられて好きでした。登場するバーのあたり(実在)は閑静で、とても雰囲気のあるところで足を運ばれて方も多いのではないでしょうか。少し怪談めいた感じもあって乙です。独立器官もとてもよいです。それはないだろうと思わせながらも、どっかでそういうおじさんが居てもおかしくないよな、ちょっとうらやましいよなと感じさせる短編。あとは初期の短編に少し雰囲気が似ているのがイエスタデイです。ありがちですが三角関係に近い状況になり、だいたいにおいて有能で綺麗な若い女性が出てきます。そしてそれに翻弄される若い男子たち。。。

こう色々と書いているとなんだかんだ偉そうに書きましたが、楽しんだ一冊でした。しかし、村上さんはあきらかに長編作家になってきているというのが私の確信ですので、ねじまき鳥を大きく超える長編を書いて頂きたいと心から切望しています。

2015年12月6日日曜日

第129回:「麻雀放浪記(二)風雲編」阿佐田 哲也

レーティング:★★★★☆☆☆

前回(第128回)でレビューした麻雀放浪記の続編です。作品の概略は前回記したとおりですが、今回はなかなか刺激的な描写から開始され、主人公の薬物中毒の模様から始まります。なかなかに描写が臨場感たっぷりで、たぶんこんな感じなんだろなと想像できるような生々しい感じです。作者の実体験も多少(ほぼ確実に)入っていたのかと思います。

いずれにせよヒロポン中毒となった主人公の哲はわけあって関西に行きます。そこで濃いメンツの大阪での麻雀、その後、京都での寺社を巻き込んだ麻雀へとのめり込んでいきます。(一)は青春編と銘打ってあったことからもわかる通り、爽やかな?青春譚といった趣きでしたが、今回はかなりディープで裏社会のメンツが顔を出す構成です。

本書で面白いのは寺院のお坊さんが寺ぐるみで麻雀を行っているシーンです。このような寺院が本当にあったのかは知る由もありませんが、あったら(ある意味)面白いと思いますし、そこに色々な人々が出入りしているというのが大らかでよいなあと思います。いずれにせよ、二冊目にしてかなーり濃い感じですので、三、四がどうなるのか怖いような楽しみなような・・・。