2012年1月29日日曜日

第34回:「ノモンハンの夏」半藤 一利

レーティング:★★★★★★☆

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。昨秋より読書に充てられる時間がかなり減少中ですが、読めないなりにちょっとずつ頑張ってレビューしていこうと思います。

今年最初の1冊は、近所の本屋で購入したものです。山本七平賞も取っており、著者の代表作のひとつなのでご存知の方も多いかもしれません。私は、ずっと昔に村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」を読んだ時にこのノモンハン事件を知り、その後も村上氏がエッセーや対談だったかで2回ほどノモンハンでの不思議な体験について言及するにつれ、いつかノモンハンについてちゃんと読んでみたいと思っていました。

本書は、時系列にノモンハン事件発生前のころから始まります。1939年の参謀本部のメンバーについて触れ、その後、大陸の関東軍に話が移っていきます。ノモンハン事件そのものを掘り下げて書くというよりは、ドイツ、イタリア、ロシア、イギリス、フランス、日本の当時の外交関係にこの事件が与えた影響や、参謀本部と関東軍が如何に互いに統制を失い、特に関東軍が如何に意図的に統帥権を干犯し、戦線拡大に突き進んだかが詳細に描写されていきます。どれも(陸軍、参謀本部、関東軍には容赦なく批判的ですが)守られるべきバランスが保たれた描写や評価であり、また、徒に細部に拘らず大局的な視点を持っている良著だと思います。

色々な読みが可能かと思いますが、ガバナンスの困難さ、中央と出先の意思疎通の欠如、加速する方向性の違い、など現代にも(軍隊でないにせよ)通じるトピックスが数多く出てきます。その意味では、日本政府であり、日本(陸)軍の犯した失敗は、単に戦争に留まらない立派な教訓を数多く引き出すことが可能であり、だからこそ類書が絶えることなく書かれているのかもしれません。また、本書は基本的にノモンハン事件のフォーカスしていますが、ご興味がある方は「失敗の本質」もお勧めです。なお、同書がまず取り上げている失敗は「ノモンハン事件」です。

組織でも個人でも失敗のメカニズムを学んだところで、それを血肉化して再発を必ず防げるものではないのが難しいところですが・・・。