2019年7月7日日曜日

第223回:「沈黙」遠藤 周作

レーティング:★★★★★★★

第219回でレビューした「深い河」に続き、遠藤周作さんの代表作です。これもいいよとお勧めをしてもらった一冊となります。さっそく読んでみましたが、題材、構成、描写、文体などどれも超一流であり、文句なしの最高レーティングです。昭和の大作家はすごいということを折に触れて描いていますが、その凄まじさを印象付けるに十分な一冊です。中学以上の学生さんにも十分読める内容だと思いますので、ぜひ夏休みなどに読んでみるとよいのではないかと思います。

テーマはキリスト教、布教と弾圧、さらには神の沈黙、そもそも信仰とは何かというところまで掘り下がっていきます。そんなに分厚い本ではありませんが、司祭や信徒に待ち受ける過酷すぎる運命を通じて、これらが浮き彫りにされていきます。作品の内容としては決して明るくありませんし、読んでいると頭からどんよりと暗い気分になりますが、それほど作品がもつパワーが強いということかと思います。

作品は、じわじわと繰り返される疑問、なぜ沈黙なのか、なぜ何の救いも与えられないのかという点を軸に進んでいきます。そして最後まで沈黙は破られず、救いも与えられませんが、その中で葛藤し、答えが見いだされていきます。基本的には信仰の葛藤を描いていると考えられますが、シニカルな見方をすればそこまで信じる価値のあるものは何なのか、ただの自分勝手な思い込みに過ぎないのかという見方も成立するのではないかと思います。ここらへんの分岐は、そもそもキリスト教的な見方を持てるのか、持てないのか、もっといえば宗教的な強い信仰を持ったことがあるのか、ないのかというところに左右されるともいますが、私は後者の部類なので司祭に没入するということは難しかったです。

しかしながら、個人的な信仰の有無は別として作品としての素晴らしさは全く減じることなくあります。また、歴史的なキリシタン弾圧の一つの側面が書かれており、その凄まじさを学ぶこともできます。2015年頃でしょうか、インドネシアのスマトラのキリスト教が多い地区に行ったことがありますが、そこでも圧倒的なイスラム圏におけるキリスト教の存在を目にして、ずいぶん驚いた記憶があります。良作中の良作といってよい一冊であり、ぜひ読んでいただきたいと思います。