レーティング:★★★★☆☆☆
まだレビュー4作目なのに、黒木亮2冊目となります(偏っててすみません)。この本が刊行されたとき、丁度海外に居たこともあり、つい最近まで不覚にも存在を把握していませんでした。さっそく図書館で借りて読み終わったところです。
タイトルが全てを表している本なのですが、排出権にまつわる様々な人の観点から同ビジネスが描かれています。主人公はある大手エンジニアリング会社の女性であり、その人の公私にわたる成長の小説として読むことも可能ですし、実に皮肉たっぷりに排出権ビジネスを描いている本としても読めます。また、金融危機発生までの数年間の資源・環境ブーム(引き続き、ではありますが)でひと儲けをたくらむカラ売り屋のお話としても読めます。これら多様な読み方ができる、という意味で面白い本かと思います。黒木亮の小説の特徴かと思いますが、なるべくネタとしているビジネスの全貌を描こうとして、多種多様なプレーヤーを丁寧にプロットし、動かしていることが伺えます。
やや残念だと思ったのが、ビジネスを丹念に描写し、そのために多くの登場人部を配置したがために、この分量の本にしては人物が盛り沢山になりすぎ、結果としてストーリーが弱くなった感じがする点です。主人公は魅力的ですし、祖母のストーリーも有効に機能しているのですが、なにか予定調和的な終わり方です。また、徹底した悪役がおらず(別にいなくても小説は成り立つわけですが)、中途半端な印象も受けます。
それにしても、上にも書きましたがこの本にも「カラ売り屋」が出てきます。黒木亮はカラ売り屋自体についての小説も書いていますが、証券会社時代にカラ売りでよっぽど儲けたのか(そんな感じもしませんが)、商社時代にカラ売りでよっぽど嫌な目にあわされたのかわかりませんが、何度もこのモチーフが出てくるのは非常に面白く感じます。大抵、リスクを取って、丹念に真実を追求し、虚飾を暴いて利益を得ていく経済界のお掃除屋さんといった形で出てくるので、作者はかなりカラ売り屋に好意的なのだとは思いますが・・なにかあったんでしょうか。
なお、舞台となっているエンジニアリング会社の内幕の描写はかなりリアルであり、プラント・ビジネスの一端(受注と利益をどう結び付けるか、VEとは何かなど)が垣間見られるという意味でも面白い本かと思います。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2011年2月24日木曜日
2011年2月19日土曜日
第3回:「チーム・バチスタの栄光」海堂 尊
レーティング:★★★★★★☆
あまり説明の必要がないくらい知名度の高い作品かもしれません。第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞、しかもぶっちぎりの評価だったそうです。後続のシリーズを含めて大変な売れ行きでしたし、発売した2006年当時のメディアによるカバーも非常に多かったのが印象的です。
当時から関心を持っていたんですが、ミステリーって一回読んだらもう一度読もうと滅多に思わないし、買うのもなーと読まずじまいになっていました。周りにも(あんなに売れたのに)読んだと言う人が不思議に一人もおらず、また、医療?大学病院もの?が元来苦手で(山崎豊子の「白い巨塔」に至っては1冊目の三分の一も読めませんでした)ためらっていました。そんななか、昨年末に某巨大チェーンの古本屋に行ったときに文庫版上下が105円でたたき売られており(すみません)、重い腰を上げて購入しました。
読んでみると冒頭のレーティングのとおりですが、これは面白いな~の一言です。まず、人物の設定と描写が極めて優れていて、一貫して出てくる田口講師は村上春樹の「1Q84」の牛河を明るくしたような味があるし、白鳥技官は(好みは別れると正直思いますが)キャラ立ちという意味ですばらしく、著者の思い切りに敬意を表したいと思います。
また、各所で指摘されていることですが、著者は現役の医師であり、医療問題がかかえる様々な構造的な問題や、見えにくい問題を随分丁寧に書いており、広い意味での社会的問題意識の高いミステリーでもあります。医師が人の生死を小説にすることには、やや抵抗がある向きもあるかもしれませんが、著者の問題意識が広く社会に投げかけることが出来ている事実を考慮すれば余り問題にならないのではないかと思います。
後続のシリーズ(2作)もぜひ読んでみたいと思います(そしてレビューします)。
あまり説明の必要がないくらい知名度の高い作品かもしれません。第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞、しかもぶっちぎりの評価だったそうです。後続のシリーズを含めて大変な売れ行きでしたし、発売した2006年当時のメディアによるカバーも非常に多かったのが印象的です。
当時から関心を持っていたんですが、ミステリーって一回読んだらもう一度読もうと滅多に思わないし、買うのもなーと読まずじまいになっていました。周りにも(あんなに売れたのに)読んだと言う人が不思議に一人もおらず、また、医療?大学病院もの?が元来苦手で(山崎豊子の「白い巨塔」に至っては1冊目の三分の一も読めませんでした)ためらっていました。そんななか、昨年末に某巨大チェーンの古本屋に行ったときに文庫版上下が105円でたたき売られており(すみません)、重い腰を上げて購入しました。
読んでみると冒頭のレーティングのとおりですが、これは面白いな~の一言です。まず、人物の設定と描写が極めて優れていて、一貫して出てくる田口講師は村上春樹の「1Q84」の牛河を明るくしたような味があるし、白鳥技官は(好みは別れると正直思いますが)キャラ立ちという意味ですばらしく、著者の思い切りに敬意を表したいと思います。
また、各所で指摘されていることですが、著者は現役の医師であり、医療問題がかかえる様々な構造的な問題や、見えにくい問題を随分丁寧に書いており、広い意味での社会的問題意識の高いミステリーでもあります。医師が人の生死を小説にすることには、やや抵抗がある向きもあるかもしれませんが、著者の問題意識が広く社会に投げかけることが出来ている事実を考慮すれば余り問題にならないのではないかと思います。
後続のシリーズ(2作)もぜひ読んでみたいと思います(そしてレビューします)。
2011年2月11日金曜日
第2回:「冬の喝采」黒木 亮
レーティング:★★★★☆☆☆
黒木亮は好きな作家の一人で、特に金融ネタの長編はすば抜けて面白い。事実、作者の本の多くはその類の本であり、その意味からして本書は相当に異色のものである。内容は、作者の陸上競技人生(中学から大学卒業まで)を中心にした青春の物語。いかに一人の青年が陸上に出会い、のめりこみ、その過程で高揚、失望、離別や出会いを体験していくか淡々とした筆致で描かれている。
全体を貫くテーマは真摯なもので、一つのことに打ち込むこと(うちこむといった生易しい言葉では決してすまされないのみりこみ様であるが)、それを通じて学べること、一生懸命やって酸いも甘いも味わいつくすことなどに加えて出生と家族も大きなテーマになっている。
1月、長時間飛行機に乗る機会があり、機内に入る前に成田空港の良く行く本屋で上下(文庫)を購入。それからやや忙しくなったのもあるが、結局、読了までちょうど1カ月かかった。特に上巻を終えたあたりで1週間程度手が伸びず(第1回の本を併読していたのもあるが)、そこまで夢中に読めなかった。
なぜ夢中で読めなかったかといえば、おそらく陸上競技人生の記録的要素が多すぎることと陸上競技以外のっ描写が乏しすぎたことだろう。前者について言えば、練習内容の記録や一カ月走ったキロ数などが延々と、そして繰り返し記載される。自伝的小説というにはなにか日記の転載のような感じを受けた。後者について言えば、意識的だとは思うが高校・大学の勉強、恋愛、アルバイトなどの記述を極力減らしているように見える。そこが一人の人間の成長ストーリーとして広がりを欠き、すこし共感が難しかった原因かもしれない。
この小説は誰に向けてかかれたものだろうか、と考える。私はこれは作者自身に、そして両親(二つの)に向けて書かれたものである気がしてならない。その意味では、一般的な読者の一人であろう私が共感できようができまいがあまり大事なことではないかもしれない。この作品は、(少なくとも)作者にとってはすごく大きな意味がある作品だったのだろうと感じる。
陸上等なにか運動に青春を捧げた人、そういう人に興味がある人、箱根駅伝に興味がある人、北海道出身の人などは読まれると強く共感されるかもしれないと思う。
黒木亮は好きな作家の一人で、特に金融ネタの長編はすば抜けて面白い。事実、作者の本の多くはその類の本であり、その意味からして本書は相当に異色のものである。内容は、作者の陸上競技人生(中学から大学卒業まで)を中心にした青春の物語。いかに一人の青年が陸上に出会い、のめりこみ、その過程で高揚、失望、離別や出会いを体験していくか淡々とした筆致で描かれている。
全体を貫くテーマは真摯なもので、一つのことに打ち込むこと(うちこむといった生易しい言葉では決してすまされないのみりこみ様であるが)、それを通じて学べること、一生懸命やって酸いも甘いも味わいつくすことなどに加えて出生と家族も大きなテーマになっている。
1月、長時間飛行機に乗る機会があり、機内に入る前に成田空港の良く行く本屋で上下(文庫)を購入。それからやや忙しくなったのもあるが、結局、読了までちょうど1カ月かかった。特に上巻を終えたあたりで1週間程度手が伸びず(第1回の本を併読していたのもあるが)、そこまで夢中に読めなかった。
なぜ夢中で読めなかったかといえば、おそらく陸上競技人生の記録的要素が多すぎることと陸上競技以外のっ描写が乏しすぎたことだろう。前者について言えば、練習内容の記録や一カ月走ったキロ数などが延々と、そして繰り返し記載される。自伝的小説というにはなにか日記の転載のような感じを受けた。後者について言えば、意識的だとは思うが高校・大学の勉強、恋愛、アルバイトなどの記述を極力減らしているように見える。そこが一人の人間の成長ストーリーとして広がりを欠き、すこし共感が難しかった原因かもしれない。
この小説は誰に向けてかかれたものだろうか、と考える。私はこれは作者自身に、そして両親(二つの)に向けて書かれたものである気がしてならない。その意味では、一般的な読者の一人であろう私が共感できようができまいがあまり大事なことではないかもしれない。この作品は、(少なくとも)作者にとってはすごく大きな意味がある作品だったのだろうと感じる。
陸上等なにか運動に青春を捧げた人、そういう人に興味がある人、箱根駅伝に興味がある人、北海道出身の人などは読まれると強く共感されるかもしれないと思う。
第1回:「ストーリーとしての競争戦略」楠木 建
レーティング:★★★★★☆☆
(僭越ではありますが、7段階評価させて頂きます。今回は5。)
昨今ちょっと話題になっている掲題の書を読んでみました。
率直にいって面白い本であり、経営、特に競争戦略論に興味のある方はぜひ一読されることをお勧めします。著者の抑制の効いたスタンスが非常にかっこいい本です。自分がこの考え方をオリジナルに発明したぜ!といった傲慢さがない(現に多くの類似、関連ある指摘が既になされていることを認め、その上でどこがオリジナルかを丁寧に説明している)、これを理解・実践すればだれでもひと儲けできるぜ!といった軽薄さがない(断定したり、過度に大きく見せようという多くのビジネス書に見られる点を慎重に避けている)といった点に好感が持てます。
ところで内容ですが、優れた競争戦略はある種のストーリーとなっている、というコンセプトで貫かれています。第1章で戦略がなぜストーリーとして読み解けるか、またストーリーとは何かを説明、第2章で過去の競争戦略理論や基本的な分析の枠組み(Strategic PositioningとOrganizational Capability)を提示します。その後、第3~5章で優れたストーリーとはなにかをコンセプト、時間軸(にそった発展)、キラーパスといった視点から分析・解説していきます。直後の第6章ではガリバーインターナショナルの事例分析を行い、第7章でまとめと続きます。
第2章まではやや冗長な感じがあり、少し飽きたのですが、第3章からは随分と鋭い分析が出てきて、唸らされます。また、著者は幅広く内外のケースを取り上げており、航空会社(サウスウエスト)、Eコマース(楽天)、飲食(Starbucks)、中古自動車(ガリバー)といった随分と異なる業種の企業のストーリーを読むだけでもかなり面白いものがあります。企業の戦略ストーリーを読むだけではビジネス・スクールのケース・スタディと変わらないわけですが、著者はストーリーをなぞるだけではなく、丁寧に腑分けし、競争優位の源泉を説得力をもって解説していきます。
著者の議論で共感した点は以下のようなところです。
・戦略とは「アクションリスト」ではない
・戦略とは「テンプレート」ではない
・ベストプラクティスの模倣は、かえって競争力を削ぐ(ただし、文脈による)
また本書で一番秀逸と思われる議論は「キラーパス」についてですが、キラーパスには模倣不能ということを超えて模倣回避を促す要素があるという点は非常にエキサイティングです。競争戦略上のキラーパスってなによ?という肝心の点ですが、ぜひ本書をご覧下さい。
500ページを超える大作ですが、著者の好奇心と探求はまだまだ続きそう(若い・・)なので、次回作にも期待したいと思います。個人的には、ケース・スタディをもっと読んで、この競争戦略論の妥当性や適用可能性についてもっと知りたい、という気持ちがあります。他方、これらの本で取り上げられた企業がもし競争優位を失っていく、失ったとすればそれはどういう過程を辿ってかという事例もぜひ読んでみたいと思います。
内容は真面目な本ですが著者の砕けた表現が随所に出てくるので読みやすさもあり(評価は分かれると思いますが、論文ではないので個人的にOKだと感じました)、かたい本はちょっとな、と思われる方にも随分とお勧めできます。
(僭越ではありますが、7段階評価させて頂きます。今回は5。)
昨今ちょっと話題になっている掲題の書を読んでみました。
率直にいって面白い本であり、経営、特に競争戦略論に興味のある方はぜひ一読されることをお勧めします。著者の抑制の効いたスタンスが非常にかっこいい本です。自分がこの考え方をオリジナルに発明したぜ!といった傲慢さがない(現に多くの類似、関連ある指摘が既になされていることを認め、その上でどこがオリジナルかを丁寧に説明している)、これを理解・実践すればだれでもひと儲けできるぜ!といった軽薄さがない(断定したり、過度に大きく見せようという多くのビジネス書に見られる点を慎重に避けている)といった点に好感が持てます。
ところで内容ですが、優れた競争戦略はある種のストーリーとなっている、というコンセプトで貫かれています。第1章で戦略がなぜストーリーとして読み解けるか、またストーリーとは何かを説明、第2章で過去の競争戦略理論や基本的な分析の枠組み(Strategic PositioningとOrganizational Capability)を提示します。その後、第3~5章で優れたストーリーとはなにかをコンセプト、時間軸(にそった発展)、キラーパスといった視点から分析・解説していきます。直後の第6章ではガリバーインターナショナルの事例分析を行い、第7章でまとめと続きます。
第2章まではやや冗長な感じがあり、少し飽きたのですが、第3章からは随分と鋭い分析が出てきて、唸らされます。また、著者は幅広く内外のケースを取り上げており、航空会社(サウスウエスト)、Eコマース(楽天)、飲食(Starbucks)、中古自動車(ガリバー)といった随分と異なる業種の企業のストーリーを読むだけでもかなり面白いものがあります。企業の戦略ストーリーを読むだけではビジネス・スクールのケース・スタディと変わらないわけですが、著者はストーリーをなぞるだけではなく、丁寧に腑分けし、競争優位の源泉を説得力をもって解説していきます。
著者の議論で共感した点は以下のようなところです。
・戦略とは「アクションリスト」ではない
・戦略とは「テンプレート」ではない
・ベストプラクティスの模倣は、かえって競争力を削ぐ(ただし、文脈による)
また本書で一番秀逸と思われる議論は「キラーパス」についてですが、キラーパスには模倣不能ということを超えて模倣回避を促す要素があるという点は非常にエキサイティングです。競争戦略上のキラーパスってなによ?という肝心の点ですが、ぜひ本書をご覧下さい。
500ページを超える大作ですが、著者の好奇心と探求はまだまだ続きそう(若い・・)なので、次回作にも期待したいと思います。個人的には、ケース・スタディをもっと読んで、この競争戦略論の妥当性や適用可能性についてもっと知りたい、という気持ちがあります。他方、これらの本で取り上げられた企業がもし競争優位を失っていく、失ったとすればそれはどういう過程を辿ってかという事例もぜひ読んでみたいと思います。
内容は真面目な本ですが著者の砕けた表現が随所に出てくるので読みやすさもあり(評価は分かれると思いますが、論文ではないので個人的にOKだと感じました)、かたい本はちょっとな、と思われる方にも随分とお勧めできます。
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