2013年8月31日土曜日

第74回:「官僚たちの夏」城山 三郎

レーティング:★★★★★☆☆

クーラーの入ったオフィスで仕事をしているにも関わらず、毎年、夏がどんどん暑くなっているように感じるのは私だけでしょうか。年を重ねて相対的な暑さの感度が良くなってしまっているのかもしれません。または、単に新陳代謝ができず、熱がこもってしまってるだけかもしれませんが・・。さて、今年の夏も非常に暑かったわけですが、そんな夏を締めくくる一冊は、かなり暑苦しいものでした。

個人的な古典的名作を読むシリーズとして図書館で借りたものですが、読み始めてすぐに気付きました(借りる前に気づけば良かったのですが)。これ、読んだことある・・・しかも恐らくここ5年以内くらいに読んだもののようです。とはいえ、良くも悪くも筋をかなり忘れており、前回かなりいい加減に読んだか途中でやめたか理由は分かりませんが、エンディングは記憶になかった(途中でやめたのかもしれません)ので、わりと楽しく読みました。

官僚、それも昔の通産省を舞台とした政治家も含めた人事抗争を描いた一作で、意外なことに殆どの登場人物に実在のモデルがいるようです。これを読むと、当時の通産省はなんとも自由闊達で面白そうなところだったんだなあ、と素直に感じます。ちなみに昔の通産省も今の経産省も全く仕事なりで接点がないので、本当の姿は全然分かりません。上に書いたとおり、徹底して人事を中心に話が進むのですが、キャリア組(いまは総合職と呼ばれるようです)の人事配置、ローテーションといったことの考え方、各局間の位置付け(少なくとも当時の通産省のということですが)などがわかり、勉強になります。また、人物造形がどれも魅力的なので、どんどん読めるかと思います。

しかし、主人公の熱量が非常に高く、昭和の熱血サラリーマン礼賛(それだけではないのは読み進めるとわかりますが)のきらいがあるので、ちょっと夏に読むには熱すぎる一冊でした。昔の官僚に特殊な憧れをもっている、とか国家公務員試験を受けたい、とかでない限り、そこまで強くもお勧めしない一冊です。経営者のお勧めの一冊などを読んでいるのでたまにでてくる本書は、良くできているし当時の熱気やしがらみを巧みに描ききっているのですが、いかんせん当時の政官の関係や官僚のしきたりにどっぷりつかってしまった小説なので、現代読んでなにか特別な感慨を抱くことは困難でした。

2013年8月10日土曜日

第73回:「企業参謀」大前 研一

レーティング:★★★★★★☆

久々に映画館に足を運びました。最後に映画館に行ったのは、覚えていないくらい古く、たしか2009年に何回かヨーロッパ某国で行った記憶がある程度です。今日は、「モンスターズユニバーシティ」を見に行きました。ピクサー製作のもので、モンスターズインクの続編という位置づけです。内容はストレートで前作より面白い感じがしました(アメリカの大学生活をパロってるというか、おかしく描いてるところも好きです)。連れてった子供も喜んでたし、なにより大きなスクリーンで見て大きな音で聴くことは、不思議にそれだけで感動するものがあります。スマホで映画、とかたまにCMでやってますが、本当に信じられません。

さて、本物を見るという話でいくと今回レビューする古典的名作「企業参謀」は、日本の経営学や関連書籍では非常に評判が高く、海外にも多数翻訳されています。海外のビジネススクールでも「大前」という名前は紹介されたりするようです(私は海外で聞いたことは残念ながらありません)。本書になかなか手が伸びていなかった理由は、そもそもあまり売ってない(オリジナルは1975年刊行)というのもありますが、それ以上に(大前さん自体が凄い人とは聞いていましたが、)とにかくどんな分野でも本を書き散らすおじさんという認識しかなく、後回しになっていました。が、しかし、結果として頭を殴られたような衝撃を受けた一冊となりました。

このブログでも何冊かコンサルタントの本をレビューしていますが(そしてそれらの多くも良本だと感じましたが)、本書は正直言ってレベルが違います。日本の本書以降のコンサルタントや経営学者(そもそも余りいませんが)は、本書と肩を並べるものは殆ど書けてこなかったと思います(楠木さんは本書を読んでも凄いと思いますが・・)。内容は、現代の経営学では古い部類に入る話が多い(イシューツリー、プロフィットツリー、製品ポートフォリオ管理(PPM)、産業構造論等)ですが、当時というか今から40年前に分析的かつ緻密に自身のオリジナルの考察も交えながらこれだけの話題をカバーしきって(メモをためた当時は30前半とのこと)、無駄なく論を進めています。また、タイトルにも表れている通り、国家でも企業でも参謀グループが必要であり、戦略的思考をもっと鍛えるべきということを非常に説得的に主張しています。丁度、当時は石油ショック後の低成長、産業構造の転換期にあったのですが、その状況は(理由は違えど)バブル崩壊後の長期低成長に入ってしまった現在の日本と似た状況であり、随所に現在でも活きる(また現在を予言したかのような)洞察が書いてあります。月並みですが時代は違えどイシューはあまり変わらないのかもしれない、と思えます。例えば目次から拾うと「低成長永続の意味」、「市場の成熟に伴う硬直化」、「生産性は頭打ち」など現在でもそのまま使いまわせそうです。

独自の参謀グループ論に加えて面白かったところですが、後半に「先見術」というチャプターがあり、独自の将来予想を書いています。一部抜粋すると、「働く既婚女性の数はますます増えてゆくであろう。したがって、家庭における料理も、短時間で調理でき、かつ家庭的雰囲気を失っていないような高級インスタント惣菜の需要がヤングカップルの居住地(通勤圏一時間内外)の交通の要衝を中心に伸びる」とかファーストフードについて「群チェーン化を行い、店頭での作業は縮小化するが、一定地域内で一つずつ支援キッチンを置くというような業態の経済性が高まる」(ファミレス含め、オペレーションはまさにこの方向ですね)と書いてたりします。同様に「健康に悪い太り過ぎの人間が次第に増えてくるであろう。したがって減量のための諸事業などを一つのパッケージとして提供すれば十分な需要が見込める」などというのも、もう本当にそのまま実現しています。

復刻版(単行本)を図書館で借りたのですが、余りに良いので買おうと思います。著者の本で読んでみたかったのが、とりあえず数冊あるのでちょっとずつ読んでみたいと思います。さすがマッキンゼー日本支社長、本社ディレクター(いずれも元)ですね。昨今の安易なウミセンのマッキンゼー本とは天と地ほどの差があります。本書に触れると、単に知っているとかノウハウがうまく纏めてあるとかではなく、(著者の)自分の頭で深く執拗に考えられ、理解されたものが書かれており、またオリジナリティの高い論考が展開されているので、著者しか書けなかったことが分かります。今回は、手放しの前向きレビューになりました・・。最近時間はあるのですが、ちょっと読書欲が(夏バテ?)減退ぎみなので、少しペースが落ちるかもしれませんが、またぼちぼち読んでいきたいと思います。