2018年3月31日土曜日

第186回:「ダークサイド・スキル」木村 尚敬

レーティング:★★★★★☆☆

2017年7月に刊行されたビジネス書です。ロングセラーになっているようで、本屋でも平積みされていますし、日経新聞にも時折広告がでているので目にされた方も多いかと思います。ビジネス書は表面的だったり、薄っぺらいものが少なくないですが、本書は切り口が面白く、二回読んでしまいました。ちなみにページ数はそれなりにありますが、平易な文章でありどんどん読めます。

著者は経営共創基盤のパートナーということですが、20代のころに会社をやったり、大病を患ったり、海外MBAやAMPの経験もあるなど幅広い経験を生かした一冊となっています。著書のタイトルはアイキャッチとしての機能を十分果たしていると思いますが、ビジネス書にありがちなやや煽りの入ったタイトル設定なのがやや残念です。中身は、ごく真っ当です。

例えばプレゼン能力が高いとか財務諸表が読めるとか、英語ができる、そういった経営上必要なスキルをブライトサイド・スキルと定義し、他方で上下の人に影響力を与え、信頼関係を構築し、情報を収集していく力をダークサイド・スキルと定義し、その強化・活用を訴えています。そのためにはCND(調整、根回し、段取り)を付けるとか、一つ上の上司とのホットラインを作るとか、情報収集のためのシナプスを張り巡らすなど色々と書いてあり、それぞれは一定以上の年数を経たビジネス・パーソンであれば実感として良くわかるものではないかと思います。

本書はいろいろな会社のミドル向けに描かれており、20代が読んでも正直ピンとこないかもしれません。20代はむしろ率直にブライトサイド・スキルを身に着けることに集中した方がよいかもしれません。また、本書を50代で読んでも逆にすべて知っている、またはもう遅いという話かもしれず、年代的には35~45くらいの方にお勧めです。簡単そうに見えますが奥深い一冊で、売れている理由が分かる気がします。

2018年3月25日日曜日

第185回:「こころの読書教室」河合 隼雄

レーティング:★★★★★★☆

この本は2度目のレビューとなります。第126回(2015年10月)に読んでレビューをしていますが、2週間ほど前に外出直前になにか本をもっていこうと思ってカバーのついた文庫本をカバンに入れていったのですが、その本がこちらでした。一度読んだ本のカバーはとることを習慣としているのですが、この本は当時忙しかったのかそのままとなっていました。

この本は河合さんの最晩年に描かれた本で、厳密には語り下ろしを本にしたものです。児童文学などを中心に紹介しながら心というものを解き明かしていくコンセプトですが、記憶にあったよりずっと深いものをテーマにしており、改めてその優しい語り口に心打たれるものがあります。臨床を扱う心理士/学者として、なにより患者であったり不調に抱える人に対するとても優しい目線をもっています。また、無意識が顔を出してしまうことがある、というスタンスでそれによる支障をそのまま受け止め、むしろそこから汲めるものが人生を豊かにするという姿勢をもっており、さすがユング派の大家という感じです。

本が数十冊紹介されており、どれも面白そうなのですがいまそのうちの一冊を読んでいます。もう1冊読んでみたいと思うのですが年度末もありやや時間がとりにくく、GWあたりにでもゆっくり読んでみたいと思います。最近は帰りの電車で疲れてぼーっとスマホを眺めることが多かったのですが、文庫は手に取りやすく、河合さんの優しい語り口にずいぶん癒されました。2回目ですが、前回より深く理解できた感じがします。もう一度数年後に読みたい一冊です。