2018年5月6日日曜日

第188回:「1973年のピンボール」村上 春樹

レーティング:★★★★★★☆

前回の「風の歌を聴け」に続き村上さんの一冊です。もはや説明不要なレベルですが、1980年3月にオリジナルが刊行された本書は、鼠やジェイといった基本的な登場人物を引き継ぎながら、ついに鼠が街を・・・吐露にという話です。印象深いのは、散文調の欠片をちりばめた文体が後半になるに向けて独白を交えて長文に変わっていき、登場人物の切実な内情の吐露に至る緩やかな変化だと思います。このあたりはとても切なく、まぎれもなくピンボールがそのきっかけを作っています。大量生産されたピンボールの古い型式を追い求めるうち、その工業製品としてのもの悲しさが迫ってくるようです。

また、鼠のような主要な登場人物ではありませんが、ミステリアスな双子の描写に多くのページが割かれており、彼らが少しずつ社会というものに関心を持っていく過程がさりげなく触れられています。正直にいって双子がなにを表象しているのかは私には直観的にはよくわからないのですが、心理学的に(安直に)言えば主人公である僕の童心ということになるのでしょう。社会には特に関心がなく、着るものにも関心がなく、他者に対して関心がないわけではないがとてもマイペースな付き合いしかできないという。しかし、そうであるならばなぜ「僕」は双子を通じて描写しないといけなかったのでしょうか。その部分を特に強調する必要があったのか、置き去ってしまった童心の中に成長のヒントが隠されているのか。

久々に初期の村上さんの作品を読み返して改めて面白さを感じます。本書ももう読むのは4~5回目だと思います。続く初期作品も読み返していきたいと思います。