2013年5月6日月曜日

第67回:「ユング心理学と仏教」河合 隼雄

レーティング:★★★★★☆☆

当書評ブログで何度かレビューしている河合先生の一冊です。岩波書店から1995年に発刊されたもので、先生が1995年3月に招きによりテキサス州A&M大学にて行った連続レクチャー(フェイ・レクチャーといって1990年から毎年、内外の高名なユング派の著名な分析家が講師を務めているとのこと)で行った講演を書籍化したものです。まず、アメリカで"BUDDHISM AND THE ART OF PSYCHOTHERAPY"というタイトルで出版され、その後、邦訳されて本書が出版されたものです。

内容としては、フルブライト留学生としてアメリカに渡り心理学の勉強を始めた先生が、その後スイスに渡りユング派の分析家となり日本に戻って、どのような経緯で仏教を意識し始めたか、日本人のメンタリティに仏教が如何に大きな影響力を持っているか、また深層心理学の分析的なアプローチと仏教的な渾然一体とした世界観がどう異なるか(もしくは共通点を持つか)について論じているものです。仏教の知識も理解も乏しい(関心はかなりあるのですが)自分にはなんとも理解が難しいものでしたが、そういうものなのかと感じるところや勇気づけられるくだりもありました。

面白いなと思ったのは、仏僧の明恵(1232年没)が生涯にわたって夢を記録し、『夢記』という書物に内容を残していること(先生が本を書いているそうなのでいつか読んでみたいと思います)。また、禅には十牛図、牧牛図という修行のプロセスを描いた絵があることや『華厳経』の「縁起」という考え方はユングの唱えるシンクロニシティと通ずるものがあることなどなどで、少しでも仏教に通じている人にはあたりまえの入り口的な知識かもしれませんが、浅学の私にとっては結構興味深いトピックばかりでした。特に「II 牧牛図と錬金術」、「III 「私」とは何か」が面白いです。昔、『正法眼蔵』を読んでみようと一念発起したのですが、あまりの長さと難解さにあっさり断念して以来なかなか手が出ないのですが、一度華厳経でも良いし、仏教のメイン級の本を読んでみたいと思うのですがいつになるやら・・。

なお、今日の報道で村上春樹氏が京大で講演を行ったことが大きく流れていました。村上氏が国内で講演をするのは極めて異例ですが、それも河合先生の縁で実現したもので、なかなかに魅力的な(お二人の)コネクションだと改めて感じました。