2019年3月31日日曜日

第211回:「自転車三昧」高千穂 遥

レーティング:★★★☆☆☆☆

NHK出版から2008年4月(もう11年ほども前ですね)に出版された新書です。高千穂さんはSF作家だそうですが、50歳を過ぎて本格的にスポーツタイプの自転車に乗り始め、その良さについて色々な角度から書かれています。感心してしまうのは、単にMTB、ロードバイクといった単一の車種を乗りついているのではなく、ママチャリ、ミニベロ、ロードバイク、ピストバイクといった多種多様な自転車を試し、それらを場面に分けて柔軟に使いこなしているところです。なかなかそういう探求心のある方はいないと思います。

本書は、新書ということもあり、極めて平易な語り口で堅苦しいことはなく話が進んでいきます。ただし道路交通法や自動車、自転車乗りのマナー、さらには自転車に厳しい交通行政に触れる部分については、思い入れが強いのかかなり繰り返し熱く進行していきます。なお、最後の部分は競輪に触れている部分が結構あります。いまどき渋い種類のスポーツですが、読んでいると結構面白く興味がわきます(競輪は一度も行ったことはありませんが・・)。とてもゆるい調子の一冊ですが、どのチャプターも面白く、自転車全般に興味がある方にはとてもすらすら読める一冊だと思います。

2019年3月18日月曜日

第210回:「花実のない森」松本 清張

レーティング:★★★★★★☆

今ハマっている光文社の松本清張プレミアム・ミステリーの一作です。1964年に刊行された一冊であり、昭和39年の作品です。始まり方はとてもユニークで、やっとこさ買った車でドライブを楽しんだ若者が、あるカップルをヒッチハイクで乗せ・・というものです。現代風に言えば、美女と野獣といったその二人に運転手はなぜかひっかかり、さらにはその女性に深く気を取られていくことになります。

これだけだとただの恋愛ものかストーカーもの見たいですが、ストーリーは思わぬ方向に動いていきます。考えてみると松本さんのミステリーは、善悪を超えて強く好奇心に突き動かされていく執念を持った男性が描かれていますが、知らぬ間に著者は自身を主人公に投影していたのではないでしょうか。それは一般的に見れば異常なほどの情熱ですが、その本人にとっては仕事やある時は人生をも左右してかまわないと思う切実な好奇心です。

本作の面白さは万葉集がキーワードとして随所に出てくるところです。百人一首もいいですが、私も万葉集の方が庶民の喜び、悲哀が聞こえる様で好きです。作品としてはずっと素朴ではありますが、そこにリアリティがあると思います。知りませんでしたが、松本さんは万葉集の大ファンだったそうで、関連する作品もあるそうですので、それはそれで読んでみたいところです。ちなみに本作も地方が終わりの方に出てきます。とても面白いです。

2019年3月10日日曜日

第209回:「疲れない脳をつくる生活習慣」石川 善樹

レーティング:★★☆☆☆☆☆

いわゆるマインドフルネスを冒頭で紹介し、あとは姿勢をよくする、よい睡眠をとる、血糖値の変動を抑えた食事をすることを推奨する本です。よくある話の寄せ集めという感じが否めず、マインドフルネスの話はグーグルのSIYの本で要素がほぼすべてカバーされていますし、ほかの話も中身として特に掘り下げたものはなかなか感じられませんでした。

ブログやネットの記事に情報が転がっている時代においては、情報の価値がかなり変わってきていて、通り一遍の常識をまとめたものについてどんどん売れなくなる気がします。本が売れなくなる時代ですが、力のある本は売れている一方、特色のない雑誌などはどんどん淘汰されており、なかなか本を出す人には難しい時代になったのではないかと感じさせられた一冊です。

2019年3月4日月曜日

第208回:「湖底の光芒」松本 清張

レーティング:★★★★★★☆

前回に続いて、松本清張さんの長編ミステリーです。めちゃくちゃ面白い一冊です。前回の作品とは異なり、主に諏訪湖畔を舞台とした作品であり、昭和中期の圧倒的な熱量をもった企業の競争と、そこで次々と捨てられる下請会社たちの悲哀を余すことなく描いています。正気と狂気と誠実さと裏切りが交錯し、とてもドラマチックな作品となっています。

書き出しは衝撃的で、いきなり倒産した企業の債権者集会から幕を開けます。書き方は悪いですが、昭和中期は倒産法制もあるはあるものの透明性をもって機能しておらず、司法の秩序が十分に浸透していなかったようで、いきなり陰謀を感じる書き出しとなります。そこから未亡人社長と誠実な腕のいい部下、伸び盛りのカメラメーカーが出てきて・・という流れですが、書いてしまうとネタバレになってしまうので、ここらへんで止めておきたいと思います。

しかし、松本清張さんの作品がいまだにこうして新版として刊行されなおすというのは、それだけ人気があり圧倒的な筆力があるということかと思います。このシリーズは相当の作品数があるので、次々と飽きずに読んでしまいそうです・・。