2018年2月24日土曜日

第184回:「息子と狩猟へ」服部 文祥

レーティング:★★☆☆☆☆☆

著者の書くノンフィクションや出ている映像が好きで、よく目にしていた(レビューもしています)ので、楽しみに手に取った一冊です。おそらく著者初めての小説作品ではないかと思いますが、出来ばえとしては率直に言って良くなく、何が言いたいのか分からず、ただひたすらに暗い話でありとても残念でした。2作品が収められていますが、結局、狩猟 とは何なのか、サバイバルすることとはなんなのかということを中心に話が展開していきますが、重要な人物(たとえば息子)の言動が非現実的であったり・・・あまりにがっかりなので今回は手短に。

2018年2月17日土曜日

第183回:「空白の五マイル」角幡 唯介

レーティング:★★★★★★★

現代には稀な冒険家の話。世界中の殆どの場所が踏破されつつある現代において、そもそも冒険というものが成立しづらくなっているわけですが、著者は冒険の現代的な意味を問いながら、ツアンポー峡谷という中国とインド国境付近の最後の楽園とされた土地について書いていきます。本書(文庫)は2012年に出ていますが、著者の角幡さんは近著(エッセー?)もあるようなので、そちらも遠からず読んでみたいと思います。

本書は前回レビューに続いて星7つです。大学時代に心底感動した本が『この地球を受け継ぐ者へ―人力地球縦断プロジェクト「P2P」の全記録』(石川 直樹)だったのですが、その本とはまた違った趣で強い印象が残りました。まずP2Pは、世界的なプロジェクトに選ばれた若者たちが衝突を繰り返しながら協力してエクスペディションを行っていくものでした。衛星携帯やブログといった当時最新のテクノロジー満載で、ほぼリアルタイムで旅の様子が発信されていく形であり、全体として明るく、夢と希望に満ちたものでした。翻って今回レビューした一冊は、大学の探検部時代からツアンポーに取りつかれた人が、大学時代のツアンポー峡谷踏査の構想を3回に分けてかなえていき、その手法も基本的には単独行、傷だらけ、サポート僅か、予測不可能な事態が連続して生きて帰れるのかどうか、という厳しいものです。また、著者の大学の先輩がツアンポー峡谷のカヌーで亡くなったエピソードから始まるように、常に死と生と冒険という重いテーマを抱えています。

読んでいて本当に驚くのが切実な動機をもってツアンポーに入り、限られた食料を持ちながら沢の遡行、藪漕ぎ、クライミング、雪との闘いを乗り越えていく強さです。自らの生を放り投げたような粗削りな旅ですが、恐れおののきながら進んでいく様はとても感動的です。また、ツアンポーの複雑な歴史や文化自体もとても興味深いですし、更には旅の最後で見せられる官憲のやさしさといった部分もぐっときます。私は、本作で出てくる人(1人だけ)とお会いし、一緒に食事を1度だけさせていただいたことがもう16年ほど前にあります。とても強烈な印象を受けた方で、眼の力が強く、今でも忘れられない方です。この本を読んでいて期せずして再びそのご活躍ぶりを目にして、まったく予期しない感銘も受けました。

2018年2月12日月曜日

第182回:「外道クライマー」宮城 公博

レーティング:★★★★★★★

久々の星7つ、とても型破りで面白い一冊でした。那智の滝を登った人が捕まった事件はニュースになりました(2012年7月)が、その時に目にされた方もいるかとおもいます。私も当時は山登りにも沢登り(こちらはやったことありませんが)にも興味がなく、沢ヤはなんでこんなバカな、罰当たりなことをするんだろうと思って気にも留めませんでした。しかし、なんとその逮捕されたうちの一人がこの著者と知って驚くとともに、更にこの本の面白さに驚いたところです。

宮城さんは、クライマーとしてヒマラヤなどで高い実績を上げつつ、そのクライミング技術に磨きを掛け、国内外で沢登りをするいわゆる生粋の沢ヤということです。仕事も那智の滝で逮捕されてからやめてしまい、今はクライミングやライター、登山ガイドなどをして過ごしているそうです。本書の面白さは、宮城さんと仲間の沢ヤのキャラの濃さと飾らない生き方につきます。常識をはるかに超えたような挑戦をただふらりとやってしまうその生き方は、とても市井のリーマンには真似もできないところであり、それがゆえにあこがれる部分があります。

本書は那智の滝での逮捕事件から始まり、メインとなるタイのジャングル46日探検、台湾の大渓谷(チャーカンシー)、称名滝の登攀といった構成です。どれも濃密な体験であり、沢や滝をひたすら遡上するという旅は私には面白さが分かりませんが、とにかくそれに魅せられて力を合わせて(合わせてないときも多いですが)進んでいく姿は痛快です。特にタイのジャングルは壮絶で生死の境目に来たというような局面がいくつか出てきます。本当はミャンマーにいきたかったのに、途中で予定を変更してタイに行ったり、いきあたりばったりですが、クライミングについてはそれなりに周到な準備をしたりと緻密なんだか緻密じゃないんだかよくわかりません。

世間の常識から大きく外れた生活ですがこういう本がちゃんと出版され、また多くの読者がついているところに日本の社会の多様さというか健全さを感じます。表現含めてとても面白く、最初の索引からかなり笑えますのでとてもお勧めです。