2017年5月21日日曜日

第168回:「大人の流儀6 不運と思うな。」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

第142回(2016年3月)に前作(「大人の流儀6」)をレビューしていますが、伊集院さんのエッセーはそれ以来です。内容は前作までと重なる部分が多く、東日本大震災、老犬のこと、銀座のこと、飲みすぎた話などではありますが、意外と今回は重複感が少なく、またどういう運命にあっても不運と思ってはいけない、とりわけ早逝した人や震災などで心ならずも亡くなった方などに対して、周りもそう思ってはならない、供養にならない、というメッセージに貫かれています。

幸いなことに、私には近しい人で災害などで亡くなった人はいませんが、この年になると早くなくなった友人もいます。彼がなんで早く逝ってしまったのかと考えることはたびたびありましたし、生きていてほしいと思ったことも、また生きていればこんなこともできたんだろうな、と感じてしまうことがありました。ただ、それは考えても仕方ないことですし、生きる者とても一方的な感傷に過ぎないことは頭ではわかっていたのですが、なにかもやもやと割り切れないものがありました。

色々と心を打つフレーズがあるのですが、「憤ってはいけない。不運だと思ってはいけない。不運な人生などどこにもないんだ。」という恩師の話の下りや、「天命とたやすくは言わぬが、短い一生にも四季はあったと信じているし、笑ったり、喜んでいた表情だけを思い出す。」あたりはとても味わいがあります。本作は故立川談志師匠、銀座のバーテン(ハヤさん)、お手伝いのサヨなど、とても魅力的な人々の話が出てきます。本シリーズが売れるわけがよくわかる一冊でアラフォー以上の方に強くお勧めです。