2014年12月28日日曜日

第108回:「かばん屋の相続」池井戸 潤

レーティング:★★★★★☆☆

池井戸さんの作品を11月あたりから順次読んでいるんですが、結構多作な作家のようでかなりの作品を量産されています。元々長編のイメージがあったのですが、短編も結構面白いものが多く、むしろ短編の方があっているのではないかと余計なお世話を思ってしまったりします。標題の短編を含む5作品が収められています。

いつもどおり、大体はメガバンクで下町の支店に勤め、中小企業を担当している若手銀行員が主人公ですが、表題作は信金職員がでてくる珍しい作品です。中小企業の業況の傾きと銀行の対応、また銀行内部での不正や上司の横暴といった池井戸さん得意のテーマで書かれていきますが、表題作はむしろ借り手である中小企業のお家騒動を中心に描いていて趣向が変わっています。ネットなどでは盛んに書かれていますが、有名なカバンメーカーの内紛を下敷きとしていることは明白で、あくまでフィクションですが、レビュー済の「空飛ぶタイヤ」のようなスタイルです。

中身としては必ずしも明るくはありませんが、短編でさっと読めるので年末年始のやや気ぜわしい時でもお勧めです。池井戸さんの作品はどの書店に行っても沢山ならんでいるので見つけるのが難しいということもないと思います。私の地元の駅の書店は本当に品ぞろえが良くないのですが、池井戸さんの本だけはこれでもかと並んでいます。それだけ売れ筋なんでしょうね。

2014年12月27日土曜日

第107回:「プロフェッショナルマネジャー」ハロルド・ジェニーン

レーティング:★★★★★★☆

年の瀬も年の瀬になってしまいました。12月は前半に色々あり、なかなか自宅のPCに触れることもできずこんなタイミングになってしまいましたが、本書を含めて3冊読み終わっていますので、なんとか年内にすべてレビューをアップしたいと思います。

さて、書店で一時期結構平積みされていた本書、ユニクロの柳井さんが「これが私の最高の教科書だ」と写真付きで帯に登場しています。2004年発刊と書いているのでなんともう10年も経っているんですね。光陰矢のごとしです。内容は、米国のITTというコングロマリットを経営した著者が自身のキャリアを振り返りつつ、経営の要諦について語るというものです。まあここまで書くとありきたりな本ということで終わるわけですが、本書は本音と建前が上手く併記されていてとても面白いところに特徴があります。

まず非常に実績を出した経営者なので厳しい記述が随所にあるんですが、他方、そうはいっても人間だから厳しくやるだけじゃだめだよね、とか、成功する経営者は沢山いるけど、アルコールとか異性問題で身を持ち崩す例も非常に多い、とか、給料はやっぱり一つの指標なので高いものを目指すべきだけど、他方若い時は経験の方がずっと大事、などなどと身近なトピックを冷静な観察眼を通して分析していきます。

あと、とても楽しいとおもったもう一つの理由は頭でっかちにならず、率直に過去の失敗についても記述しており、さらに全編にビジネスで前向きに努力して成功していくことについての楽観的でポジティブな見方が満ちているところです。ここは自分の反省にもつながるのですが、やたらむずかしく考えたり、必要以上に高いものを求めたりしていないか、よく振り返る必要があるように感じています。時代はやや古いですが、内容は現代でもまったく遜色なく読めるもので、少し分厚いですがビジネス・パーソンに非常にお勧めです。30代以上の人の方が頭に入りやすい内容かもしれません。