2014年6月25日水曜日

第95回:「終戦のローレライ」福井 晴敏

レーティング:★★★★★★☆

かなり前回のレビューから時間が空いてしまいました。別に読書をやめていたわけではないのですが、色々と変化もありちょっと忙しくなってしまったのと、今回レビューする一作が文庫版で4冊もあり、異様に大作だったことが原因です。以前「亡国のイージス」をレビューした福井さんの代表作の一つである「終戦のローレライ」です。

元々映画化のために書き下ろされた一作だそうですが(映画は見てません)、核心の点がやや荒唐無稽であり最初は鼻白む感じがしましたが、ところがどっこいストーリーの壮大さ、まさに映画向きな危機の連続とその切り抜け方、単なる娯楽大作に留まらない複数の納得感ある視点の提示があり、ほとんど飽きることなく読み進めることができました。常々よい小説とは様々な読み方ができるものと書いていますが、本書はそういう意味でよい一冊だとおもいます。とにかくこれだけスケールが大きいのに破綻していないエンターテイメントを書ける作者は、今の日本にも5人いるかどうかというレベルではないかと思います。

「亡国のイージス」はほぼ現代の話でしたが、今回は終戦という言葉から分かるとおり1945年の終戦(敗戦)に着想を得て書かれています。素晴らしいのはドイツ、日本、アメリカを主な舞台にしていながら、各々がバラバラにならずに綺麗に一つの物語に統合される点です。また、主人公と思しき3人はいずれも10代であり、ただの戦争や戦闘といった話ではなくさわやかな青春小説という側面も持っています。この点、話としては決して明るくないと思いますが、「亡国のイージス」よりずっと前向きで心を打つ物語に仕上がっています。

もし福井さんの本に関心を持って、読んでみたいという方がいれば、間違いなく本作から読むことをお勧めします。相当の大作ですが文章がこなれていて読みやすく、場面もそれなりに素早く展開していくのでほとんど飽きません。約1カ月これを読むのに費やしてしまいましたが、全然後悔はありません。なお、終章の完成度も非常に高く、作者は相当推敲を繰り返したであろう後が読み取れます。ぜひ、夏休みの終戦のシーズンに一度手に取ってみてはいかがでしょうか。色々と考えさせられます。