2015年11月23日月曜日

第128回:「麻雀放浪記(一)青春編」阿佐田 哲也

レーティング:★★★★★☆☆

故・色川武大さんが麻雀小説を書くときに使っていた執筆名が、阿佐田 哲也でした。この本は長らく評判は聞いていて、数少ない麻雀小説の中でも伝説的な一冊ですが、ブックオフでまとまって4冊売りに出ていました。迷ったのですが、とりあえず(一)と(二)だけ買いました。結論から言って、全部買っておけばよかった…という感じです。

昨今の麻雀人口減少時代の今になっては化石のような小説ですが、書き出しは戦後間もなくの上野界隈となります。その後、銀座や横浜も舞台として出てきますが、殆どが上野近辺を舞台として話が進みます。まず、この街に今も息づく独特の雰囲気が舞台セッティングに生きてきます。また、話の内容は明るく楽しいものではなく、否応なく博打、特に麻雀をプロ、セミプロとして続けていく人々のもので、極端なバイオレンスこそないものの、正直言ってどしようもない部分も多いのは事実です。しかし、博打の息詰まるやりとりやかけひき、そして本当に濃厚なキャラクター一人一人が生き生きと描写されている点が戦後直後の暑苦しい混沌とした雰囲気と渾然一体となって迫ってきます。

麻雀の話が中心ですので、ルールが分からないと読んでいても半分は理解不能かと思いますので、この時点で若い読者の9割は除外されてしまいそうですが、サブタイトルにあるように青春編と銘打ってあることからもわかる通り、20前後の方はなにかおとなに変わるころの切実なもどかしさに共感できるのではないかと思います。社会性は低いわけですが、能力や鋭利さの高まる年代に苦しむ一人の男性が、魅力的な大人とともに描かれ、青春小説としてもとても素晴らしい出来だと思います。自慢できる話ではありませんが、18~20歳の頃、私も本当によく雀荘に行っていました…。良くも悪くもこれも良い青春の思い出で、徹夜で麻雀して朝の凍てつく空気を吸った時の爽快感と後悔を含んだ気持ちを今でも忘れません。