2015年2月22日日曜日

第112回:「鉄のあけぼの」黒木 亮

レーティング:★★★★★★☆

久々の黒木さんの作品です。元々週刊エコノミストに連載された一冊で、私は文庫本(上下2冊構成)で読みました。レーティングについて言えば、昔の話と切ってしまえばそれで終わりかもしれませんが、とても真摯で胸を打つ戦前・戦中・戦後の一大経済叙事詩であり、西山弥太郎という日本の産業人の中でも特筆すべき一人の一代記となっており、後世に読み継がれてほしいと思える一作です。黒木さんのエンターテイメント性が強い作品とは完全に一線を画した本格的な経済ノンフィクションであり、著者の力量をまざまざと見せつけられた一冊です。

舞台は川崎製鉄(現在はNKK(日本鋼管)との統合を経てJFEスチール)です。元々川崎造船の一部門としてスタートしますが、殖産興業の流れ、また戦前の軍拡の中で鉄の需要は大きく伸びた時代に、西山弥太郎は冶金学科を卒業、入社します。寝ても覚めても研究しているか、現場に出ているかというエンジニアだったようで、その博識ぶり、徹底した研究姿勢、更に現場で解決していくという姿勢など、若いころから特筆すべき働きを残しています。また、凄いことに会計や経済といったことも旺盛に勉強を重ね、経営者としても遅咲きながらぐんぐんと成長し、大胆なビジョンを打ち立て、大きな人間性で周りを巻き込んでいっていることです。

詳細はあまり書くと面白くないので差し控えますが、その間には空襲等による製造設備の喪失、肉親の早すぎる死(この下りは涙なくして読めません)、官民からの目に見えぬ圧力が絶え間なくふりかかりますが、強い信念と明るさで突破していくところが印象的です。戦後は公職追放で(西山さん自身も危うい立場に居たようですが)多くの重役が抜ける中で川崎重工のトップにという話もあったようですが、タイトルのとおり鉄に一筋だった西山さんはあくまで鉄に拘り、分社化をして川崎製鉄のトップとして辣腕をふるっていきます。世界銀行からも資金をたびたび引いていたというのも全く知りませんでした。

解説にも書かれていますが、同世代の経営者(例えば松下幸之助、本田宗一郎)などに比べてサラリーマン経営者ですし、著名ではなく(私も本書で初めて知りました)、言って見れば地味な存在かもしれません。しかしながら、その(個人としても会社としても)苦闘の歴史があり、更に西山さんの日本内外のために鉄を作るという気迫が胸に迫ります。こういう熱い経営者やその仲間の闘いの上に各社の歴史があると思うのととても不思議でありがたい感じがします。また、こういう優れた経営者に着目し、その足跡を掘り起こしたうえで丹念かつ冷静に描写していく黒木さんの努力にも頭が下がるものがあります。日本産業史を知る上でもとても素晴らしい一冊ですので、強くお勧めです。

2015年2月18日水曜日

第111回:「坐禅のすすめ」平井 正修

レーティング:★★★★★☆☆

前回に続いて仏教関係の一冊です。他に1冊併読しているのですが、経済関係の上下巻なので結構時間がかかります。

さて、本書は臨済宗全生庵の住職が書かれた優しい坐禅の入門、といった本です。前回レビューしたものは禅というものはなにか、初心とはなにか、ということでしたので、それを読んでからのこの一冊はとても理解しやすいものでした。活字が大きく、一つのチャプターが3~4ページととても読みやすいのですらすら読める半面、がっつりと禅というものを理解するには向いている本ではありません。

禅や坐禅で面白いと思える考えは、「余計なものを捨てる」、「開き直る」、「強さよりしなやかさ」といった点を強調し、さらに頭でっかちな理解ではなく、ひたすらに実践を求め、耳学問となることを厳に戒めているところです。どちらかというとまず理性的になにかを理解したい、と感じてしまう性質なので、アプローチが新鮮です。ぜひ、禅の入門書と合わせて読まれることをお勧めします。全生庵、一度行ってみたいものです。