2012年8月30日木曜日

第49回:「栄花物語」山本 周五郎

レーティング ★★★★★★☆

歴史小説が好きで、小学校の後半から家にあった司馬遼太郎、吉川英治などに夢中になりました。中学卒業くらいで、かなり読んだ気になって、このジャンルはいいかなと早合点し、それ以来あまり読んでませんでしたが、不思議と社会に出るとまた読みたいなぁと思うことがあります。

さて、山本周五郎氏はいわずと知れた歴史/人情小説家で昭和を舞台に数多くの名作を残されました。しかし、よく読んでいた司馬作品に比べて、人情要素が多そうなこと、執筆した年代が古いことなどが理由で一冊も読んだことがありませんでしたが、本屋に行くといつも気になる存在であり、このたび栄花物語を読んでみることにしました。

読み始めてみると、かなり人情色が強く、最初はちょっと外したのかなと思いましたが、田沼意次を中心として武家と町人を交えて物語が絡み合い、独特のリズムを感じ、ぐっと引き込まれてしまいました。文庫で600ページを超えるのですが、全く長さを感じさせません。長らく親しんだ司馬さんの本に比べると目線が(意図的に)低く設定されており、少し説明的です。その分、人の描写は、素晴らしく、感情移入させられます。

主題は色々あると思いますが、毀誉褒貶ある政治家の信念、優れた才能を持ちながら、身を持ち崩しつつ、なお人情に引きずられる人間くさい作家、生真面目でうまく行くように見えて、激しい一面を持つ旗本、などなど様々な生き方があり、どれも魅力的なテーマを抱えています。古い小説ですがかなりお勧めです。