2015年7月25日土曜日

第120回:「完約7つの習慣」スティーブン・R・コヴィー

レーティング:★★★★★★★

もう初版が日本で出てから10年以上が経ちます。当時は大ヒットした一冊ですし、その後も現在もまで類書やシリーズが出続けているので相当な人気なのでしょう。私も書店などで繰り返し目にしていましたが、特に手に取ることもなく、なぜかあまり関心もありませんでした。しかしながら今さらなぜ図書館で借りてこようかと考えたかというと、先日ある海外の空港に居たところ、空港の小さな本コーナーでかなりプッシュされていて、日本に戻ったらちょっと読んでみようかという気になったのでした。

さて、内容はサブタイトルの「人格主義の回復」といういかめしいものほどは難しくないですが、よく生きる、ということはどういうことか、またそこに働く原則や有益な習慣とはなにか、ということについて書かれています。通常、生き方や働き方について書いた本というのは、こうすると上手くいくよ、とか、こうすると仕事がどんどん出来るよ、といった行動や考え方を指南するものですが、本書はまず生き方と原則だろう、というところから始まり、ざっくり言えばそれが全てです。面白いのは行動や考え方をどうするかというよりは、普遍的な原則があって、それに照らしてどういう行動や考え方が望ましいか書いている点です。すなわち、自分の行動や考え方を変えれば全て上手くいく、という安直な指南とは一線を画しているのが売りです。さて、自分の備忘録として、下に書かれていた習慣を列挙しておきたいと思います。

<私的成功>
第1の習慣 主体的である(インサイド・アウト)
第2の習慣 終わりを思い描くことから始める
第3の習慣 最優先事項から優先する(第Ⅱ領域)
<公的成功>
第4の習慣 Win-Winを考える
第5の習慣 まず理解に徹し、そして理解される
第6の習慣 シナジーを作り出す
第7の習慣 刃を研ぐ

とまあこんな感じでして、並べてみると「はーそんなもんか」と思われるかもしれませんが、読んでみるととても説得力があり、少なくとも私は殆どのことが実践できていません。すべてを真面目に実践しないとだめだというものではないですが、1、2、4、5、6あたりは殆どできてない感じがあります。ここらへんは個人的な実感でしかないのですが、自分を振り返るよい切っ掛けとなります。

この本の素晴らしいところは、無駄に社会的な成功ばかりにとらわれずに書かれているところです。そういう意味ではすごく地味で地に足がついた内容となっています。(だからこそ世界的にヒットしたのだと思いますが。)社会人になったばかりのころに、カーネギーの「人を動かす」を尊敬する先輩に勧められて読んで、とても感動した覚えがありますが、こちらの一冊はかなり体系だって理論的になっています。カーネギーの一冊ほどエモーショナルではありませんが、読みやすく、十分な事例を踏まえた高い説得力があります。

こちらは文庫もでているので購入したいと思います。久々に手元に置いておきたい一冊を読めました。

2015年7月20日月曜日

第119回:「最後の将軍」司馬 遼太郎

レーティング:★★★★★☆☆

更新タイミングに間が空きがちですが、本はちゃんと・・・少ないながら読んでいます。本作は5月に読んだのですがスーツケースに置きっぱなしにしており、先週やっと読み終わっていたことに気づきました。どうも仕事がかなりの私の時間を取ってしまっており、ゆっくりとPCの前に座ることができていない状況です。

さて、本作はお馴染みの司馬遼太郎さんの一冊で、長さ的には中編という感じでしょうか。徳川幕府第15代にして最後の将軍である徳川慶喜の話です。司馬さんの作品を始めとして、幕末ものには必ず徳川慶喜が登場しますが、そのユニークなキャラクターについて詳細に触れられることは稀で(登場人物の一人なので仕方ないところですが)、江戸城の無血開城の下りで勝海舟と共に登場するか、その前の京に登る登らないで優柔不断な姿を見せたなどといったやや批判的な描写がなされることが多いと思います。しかしながら、この一冊は堂々と徳川慶喜だけをフィーチャーしており、珍しいモノもかと思います。

そして読んでみるとかなり面白いです。水戸藩のいわゆる水戸学について触れつつ、将軍の出自が解き明かされていき、また時には少し不思議な行動様式についても謎解きをするように話が展開します。また、将軍をやめてからのエピソードも興味深いものがあります。決して最後まですんなりした説明もないですし、釈然としない感じも残ります。そして司馬さんもそれを承知で謎や不可解な部分はそのままに無理な講釈をせずに筆を進めていきます。

特異な時代には本当に様々なプレーヤーがきら星のように出てきますが、幕末を彩るプレーヤーの中で、その地位などは別にしてもとても強い輝きを放っているように感じます。将軍だからという部分はあるでしょうが、徹頭徹尾、人がどうおもうかや人に好かれたい、そういう動機が頭にないような強い意思を感じます。まさに善悪の彼岸という印象です。