2015年10月24日土曜日

第127回:「オレたち花のバブル組」池井戸 潤

レーティング:★★★★★★☆

昨年一世を風靡したドラマ「半沢直樹」シリーズを構成する一冊です。2008年刊行で第22回山本周五郎賞候補となりました。ドラマの半沢直樹は後半からリアルタイムで見たのですが、キャストの良さ、テンポの小気味よさなどから最後までかなり楽しみに見ました。そして少し時間が経ちましたが原作を読んだ順番です。こういう時事もの、エンタメものには割と厳しいレーティングを付けるのですが、本作品は小説でもとても面白く、同時にドラマがかなり原作を忠実に再現していることを思い知りました。

基本的にはすでにご存じの方が多いと思いますが、主人公の半沢が銀行の中で急に重要取引先の伊勢志摩ホテルを押し付けられ、金融庁の黒崎検査官との対決を迎える・・という話です。しかしその中には同期の助け合いや友情、サラリーマンの挫折と復活などのとても身近で身につまされるような話がふんだんに盛り込まれています。

月並みですが半沢直樹の行動は、銀行員として正しいことをするという信念に基づいており、銀行員に限らず正しいことをそのまま言う、行動にするという会社の中では時としてとても難しいことが描かれているからこそ大ヒットしたのではないでしょうか。裏返せば社会の人々は色々な矛盾や挫折や限界を感じながらも日々頑張って仕事をしているということかもしれません。半沢シリーズの他の本も読み進めていきたいと思います。

2015年10月12日月曜日

第126回:「こころの読書教室」河合 隼雄

レーティング:★★★★★★☆

河合さんの著作は今までかなり読んできましたが、そのユーモアや優しい語り口を感じるにはこのような口述(セミナー)形式の本がとても良いのではないかと思います。村上春樹さんとの対談も同じような雰囲気のある本で、名著だと思います。

さて、河合さんは大臣まで務めたマルチな方でしたが、本業はユング派の臨床心理士でした。夢というものを入り口に無意識というものを考え、その後、各国の神話や昔話、はては児童文学などまで縦横無尽に読み、その意味について広く論じてきた方で、本人は謙遜されていますがものすごく文学的な能力や関心の高かった方ではないかと思います。

本書はタイトルから分かる通り、先生が生前に愛された沢山の本を紹介しながら、心理学的な見方についても同時に触れていくというものです。4つのチャプターから分かれていますが、最初は「私と”それ”」というもので、いわゆる意識と無意識、ペルソナとエス、そういったものについて触れています。2つめは「心の深み」というもので内界、外界、病といったものについて書いています。3つめは「内なる異性」ということでジェンダーやセクシャリティについて、最後は「心」というもので創造的病いや十牛図といった先生の著作でよく出てくるモチーフで締められます。

自分のための備忘録になってしまいますが、下に本書で紹介されている本のうち、近々読んでみたい、再読してみたいとおもった本を書いておきたいと思います。皆さまも良ければ本屋で除いて頂ければと思います。

山田 太一『遠くの声を探して』
フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』
村上 春樹『アフターダーク』(再読)
井筒 俊彦『イスラーム哲学の原像』
ルーマー・ゴッデン『ねずみ女房』
エマ・ユング『内なる異性-アニムスとアニマ』
C・G・ユング『ユング自伝-思い出・夢・思想』
白洲正子『明恵上人』

どれもタイトルを書くだけで色々と想像が膨らみ、とても面白そうです。時間はかかると思いますが一冊ずつ見つけて読んでいきたいと思います。