2014年5月11日日曜日

第94回:「外資系金融のExcel作成術」慎 秦俊

レーティング:★★★★★☆☆

日経新聞で何度も広告が打たれており、実際、書店でもかなりの売り上げになっているようなので、なんとなくタイトルを目にされた方も多いかもしれません。タイトルはやや釣りが入っていますが、要は外資系金融機関でフィナンシャル・モデル(FM)をどう作っているか、というノウハウを記載したものです。著者はモルスタに勤務後、プライベート・エクイティのユニゾン・キャピタルに勤務したそうです。ジュニアポジションだったので、相当FMを作り、回しという作業を積み重ねたであろうことが想像できます。

私も仕事がらFMを受け取って、簡単なシュミレーションをしたり、また自分の仕事のため、簡単なコーポレートのFMなどを作って走らせるということはしていたのですが、高度なモデルを組めない、そもそも組み方を体系的に学んだことがない、簡単なモデルを組んでもやたら見づらい、などの悩みがありました。このため本書には刊行後からかなり関心があったのですが、丁度、後輩が貸してくれるということでありがたく読みました。結論からいって金融関係の方、特にジュニアの方にはよい一冊だと思います。私もそんなに若くはないのですが、目からうろこが沢山あり、一部の内容は日々実践することで身につきつつあります。ちなみに、本書は実際に手を動かしてExcelを開いてカチャカチャしながら読むのが一番だと思います。

さて、本書の良いなと思う点はかなりあるのですが、まずは徹底して無駄が省かれ、大事な内容に絞って書いてあることです。ノウハウとしてはたくさん詰まっていますが、覚えきれないほどの分量ではありません。良くあるExcel使えるようになる!みたいな本は、やたらめったらどうでもいいショートカットなども記載しているのですが、FMを綺麗に、正しく作るというその目的に必要かつ良く使うものに絞り込んでいるので、とても読みやすいものになっています。次には、「いかに見せるか」という見た目の話をきっちりと書いているところです。綺麗に頭に入ってくる数字、見やすくて、その意味を読み取ろうという気になる数字というのがあります。見やすい、見やすくないの分かれ目は、多くの場合見せ方の問題で、特に投資銀行的なノウハウが特に役立つところなのでしょう。簡単なルールだけ記載していますが、ちゃんと、綺麗に見せる、というのは社内でも社外でも非常に大事だと思います。読む気が失せるような数字の羅列はわりとどこの業界でもあるのではないでしょうか。見せ方だけにこだわれば軽薄に聞こえますが、しっかりとした理由と技術が詰め込まれており説得的です。最後に、今までない領域に挑戦した点です。英語では1冊FMだけについて記載している本を知っていますが、日本語でFMについて正面から書いているものはなかったはずです。そういうところに若い著者が果敢に挑んだところは大変勇気がいることですし、意味も大きかったような気がします。

他方、少しだけ改善すれば・・と思う点ですが、Amazonの書評でも指摘されています(その他にも数字でも数点あります)が、誤植や数字が手順どおりにやっても合致しないところがある点です。これはおそらく重版で修正されるものと思いますが、少し残念でした(他の部分がプロフェッショナルなだけに)。あと一つは印刷の色が薄い点です。Excelで見やすいように淡色を使っている影響があるかと思いますが、印刷の色もかなり薄いので少し見にくいのが気になります。少し色覚が良くない方などは殆ど色が分からなくなるのではないでしょうか。

色々書きましたが良著です。金融関係者、各種財務諸表を扱う方などはぜひ手にとって見られると面白い一冊だと思います。著者は意欲的な方のようなので、お忙しそうですがこれに限らずいつか2冊目を出されることを期待しています。

2014年5月6日火曜日

第93回:「熱く生きる」天野 篤

レーティング:★★★★★☆☆

著者の名前をどこかで聞いたことが・・という方は多いのではないでしょうか。今上天皇の心臓手術を2012年に執刀した心臓血管外科医で、現在、順天堂大学医学部の教授です。私は2012年の手術の時に、その経歴を紹介するエピソードを聞いて関心を持ち、おそらくその年か2013年だったか定かでないのですが、NHKの『プロフェッショナル』で特集されており、強く感銘を受けました。気骨のある、血の通った人柄に大変な魅力を感じました。

その偉業や経歴については様々なところで紹介されていますので、ググれば一発で出てくると思いますが、若くしてお父さんが心臓病に罹り、それを治したいという思いもあって医師を志します。優秀な進学校に居たのですが成績は振るわず3浪、(医学部としては)決して優秀とは言えないある私学に入り、医者となります。その後も伝統的な医師のヒエラルキーに安住することなく腕を磨き続け、比類ない治療件数と手術実績を残し、順天堂教授に上り詰めます。これだけでも一つの現代版のサクセスストーリーとして面白く読めますが、3浪時の意外な放蕩のエピソード、お父さんを救えなかった無念、コンプレックスを基にした強烈な努力とプライド、(偉くなっても)患者を第一に考え向き合い続ける姿勢など、まさにプロフェッショナルの題材にうってつけという感じです。

平易な文章で書いてあり、すらすらと読めますので、おそらく3時間もかからないと思いますが幾つか面白いなと思った点を残しておきます。
・医師は大変な金銭的、社会的コストの上になる職業であり、全力で患者に奉仕しないといけない(際限はあります)。
・エリート医師でもそれに見合う努力をしていないモノが多すぎる。自身は泊まり込みを続けて平日は殆ど家に帰らないスタイルでやってきた(推奨はされていません)。
・患者に言われた「人の3倍努力すると、神様はなにかくれる」をモットーとして、今も糸の結び方などを日々練習している。医師は医師道だと思っている。
・オフポンプ(人工心臓不使用)手術が現在の主流であり、積極的に取り組んできた。また、感染症の低減も世界トップクラス。6,500回以上執刀。


自分なりに魅力を感じた点を纏めれば、①オリジナルな信念を持って実践している、②そのための努力を継続している(場数の多さが成長を速めている)、③心が通っている、④適度な遊びがある(麻雀やゴルフetc)というところでしょうか。興味を持たれた方はオンラインで見られるのかもしれませんが、上記のNHKプロフェッショナルを見るとより厳しくも温かい人柄が伝わるかと思います。医者の不養生ではありませんが、食生活などがかなり厳しい感じだったので、ぜひご自身も大切に長く医療に携わって頂きたいと思った一冊です。