2016年2月2日火曜日

第137回:「楽園のカンヴァス」原田 マハ

レーティング:★★★★★☆☆

ある大先輩に一度勧められ、今度読んでみようと思いつつ少し時間がたち、ひょんなことから読む機会を得ました。原田マハさんという方は、お名前も知らなかったし、正直そこまでメジャーな方でもないと思いますが、いろいろと調べてみると多作の作家のようです。また、美術を題材として多くの作品を書かれていて、初めて読んだ本作は大先輩が進めるとおり、とても素晴らしい作品でした。

題材は表紙に描かれている絵を描いたアンリ・ルソーです。フランスの画家であり、ピカソのような大家と比べると評価がやや別れるところですが、はっきりとした色遣いで、ややもすると芸術的というよりはポスターのような絵にも見えるところが特徴です。長いこと徴税官などを勤めたことから、日曜画家(良い意味ではないですね)などと呼ばれたりもするようですが、本人の一生を主題としながら、若き美術研究者とキュレーターがそれぞれのプライベート・ライフとキャリアを抱えながら交錯するというものです。

まず印象に残ったのは作者の筆致のペースが乱れず、読みやすい文章を書かれる点です。美術が題材ではあっても、過度に描写的でなく、わざとらしい感じがありません。むしろ文章はすっきりと無駄がなく、おそらくですが、それなりのページ数にもかかわらず相当推敲された渾身の作品なのではないかと思います。次に作者の美術への情熱とルソーへの強い愛情です。これだけの資料を調べ、丹念に想像も交えながらルソーのそのひたむきさや情熱を再評価して世に問いたいという強い意欲を感じます。また、作品はバーゼル(スイス)ののどかな街を中心にしながら、20世紀入り前後のパリ、現代の日本と米国も描かれており、時代、地理的な広がりを獲得しており、とても奥行きのあるものとなっています。

美術は全然わからないのですが、MOMA、大英、ルーブル、エルミタージュ、テート・モダンなどに行く機会に恵まれ、そのどれもかなりよい思い出として心に残っています。その中で正直ルソーの絵をみたかどうか覚えていないのですが、どうも日本にも、それも身近な美術館にあるようなので今年中に一作は生で見に行きたいと思っています。

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