2016年2月21日日曜日

第138回:「ソロ 単独登攀者 山野井泰史」丸山 直樹

レーティング:★★★★★★☆

人物ドキュメンタリーの一冊です。特に理由はないのですが、この書評で取り上げることの少ないジャンルです。特に理由がないと書きましたが、要は他人が誰かについて書いたものがあまり好きではないのかもしれません。なかなか手触りがなく、まだ存命の方についての本ならなおさらです。しかしながら、本書は期待を大きく上回る一冊で、とても面白いものでした。ちなみに1998年に初版ですので、結構な年代物です。

まず山野井さんは、本書の出版元である「山と渓谷社」が出す雑誌の人気投票で知りました。なにかとランキングの多い雑誌で、例えば好きな日本アルプス、とか好きな登山ギアブランドとかしょっちゅうランキングを付けており、たしか2015年末あたりの号に好きな登山家といったランキングがあり、そこで1位だったか2位になられていたのが、この山野井さんです。そのときは恥ずかしながら名前しか知らず、Wikiなどで調べてみると、びっくり。とてつもないアルパイン・クライマーであり、それこそ現代では世界を代表するといっても全く過言にならない方だと知りました。そんなこんなで図書館をぶらついているときに、偶然見つけてすぐに借りました。

本書の素晴らしいところは、率直な著者の姿勢です。取材対象である山野井さん(夫妻)を過度に称揚することはなく、むしろ普通の人の視線でやや辛辣な嫌いさえあります。他方、著者自身もロック・クライミングをやっていたようで決して山が嫌いではなく、むしろ山に取りつかれた山野井さんに徐々に好感を抱いていきます。そしてなにより本書の面白いところは山野井さんの破天荒な生き方です。すでに小学生からある「登る」というキーワード一つに、高校から本格的にのめり込むさまは正直に言って異様であり、すこし理解しがたいところがあります。また、次々と名声を打ち立ててからもさらに危険に接近し続けるようにチャレンジを続けています。本書以降にも本当に危険なクライミングを繰り返しており、重大な怪我を何度かされているようです。。。

こういう激しい登山のジャンルがあるとは知らず、さらにこの方のような激しい登山に取りつかれた生き方があることも知りませんでした。これは真似しようとしても(真似しようと思いませんが・・・)真似できない世界ですが、彼が見たもののすさまじさは何となく感じることができます。ぜひ続編を作っていただきたい一冊です。

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