2011年2月24日木曜日

第4回:「排出権商人」黒木 亮

レーティング:★★★★☆☆☆

まだレビュー4作目なのに、黒木亮2冊目となります(偏っててすみません)。この本が刊行されたとき、丁度海外に居たこともあり、つい最近まで不覚にも存在を把握していませんでした。さっそく図書館で借りて読み終わったところです。

タイトルが全てを表している本なのですが、排出権にまつわる様々な人の観点から同ビジネスが描かれています。主人公はある大手エンジニアリング会社の女性であり、その人の公私にわたる成長の小説として読むことも可能ですし、実に皮肉たっぷりに排出権ビジネスを描いている本としても読めます。また、金融危機発生までの数年間の資源・環境ブーム(引き続き、ではありますが)でひと儲けをたくらむカラ売り屋のお話としても読めます。これら多様な読み方ができる、という意味で面白い本かと思います。黒木亮の小説の特徴かと思いますが、なるべくネタとしているビジネスの全貌を描こうとして、多種多様なプレーヤーを丁寧にプロットし、動かしていることが伺えます。

やや残念だと思ったのが、ビジネスを丹念に描写し、そのために多くの登場人部を配置したがために、この分量の本にしては人物が盛り沢山になりすぎ、結果としてストーリーが弱くなった感じがする点です。主人公は魅力的ですし、祖母のストーリーも有効に機能しているのですが、なにか予定調和的な終わり方です。また、徹底した悪役がおらず(別にいなくても小説は成り立つわけですが)、中途半端な印象も受けます。

それにしても、上にも書きましたがこの本にも「カラ売り屋」が出てきます。黒木亮はカラ売り屋自体についての小説も書いていますが、証券会社時代にカラ売りでよっぽど儲けたのか(そんな感じもしませんが)、商社時代にカラ売りでよっぽど嫌な目にあわされたのかわかりませんが、何度もこのモチーフが出てくるのは非常に面白く感じます。大抵、リスクを取って、丹念に真実を追求し、虚飾を暴いて利益を得ていく経済界のお掃除屋さんといった形で出てくるので、作者はかなりカラ売り屋に好意的なのだとは思いますが・・なにかあったんでしょうか。

なお、舞台となっているエンジニアリング会社の内幕の描写はかなりリアルであり、プラント・ビジネスの一端(受注と利益をどう結び付けるか、VEとは何かなど)が垣間見られるという意味でも面白い本かと思います。

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