2011年2月11日金曜日

第1回:「ストーリーとしての競争戦略」楠木 建

レーティング:★★★★★☆☆
(僭越ではありますが、7段階評価させて頂きます。今回は5。)

昨今ちょっと話題になっている掲題の書を読んでみました。

率直にいって面白い本であり、経営、特に競争戦略論に興味のある方はぜひ一読されることをお勧めします。著者の抑制の効いたスタンスが非常にかっこいい本です。自分がこの考え方をオリジナルに発明したぜ!といった傲慢さがない(現に多くの類似、関連ある指摘が既になされていることを認め、その上でどこがオリジナルかを丁寧に説明している)、これを理解・実践すればだれでもひと儲けできるぜ!といった軽薄さがない(断定したり、過度に大きく見せようという多くのビジネス書に見られる点を慎重に避けている)といった点に好感が持てます。

ところで内容ですが、優れた競争戦略はある種のストーリーとなっている、というコンセプトで貫かれています。第1章で戦略がなぜストーリーとして読み解けるか、またストーリーとは何かを説明、第2章で過去の競争戦略理論や基本的な分析の枠組み(Strategic PositioningとOrganizational Capability)を提示します。その後、第3~5章で優れたストーリーとはなにかをコンセプト、時間軸(にそった発展)、キラーパスといった視点から分析・解説していきます。直後の第6章ではガリバーインターナショナルの事例分析を行い、第7章でまとめと続きます。

第2章まではやや冗長な感じがあり、少し飽きたのですが、第3章からは随分と鋭い分析が出てきて、唸らされます。また、著者は幅広く内外のケースを取り上げており、航空会社(サウスウエスト)、Eコマース(楽天)、飲食(Starbucks)、中古自動車(ガリバー)といった随分と異なる業種の企業のストーリーを読むだけでもかなり面白いものがあります。企業の戦略ストーリーを読むだけではビジネス・スクールのケース・スタディと変わらないわけですが、著者はストーリーをなぞるだけではなく、丁寧に腑分けし、競争優位の源泉を説得力をもって解説していきます。

著者の議論で共感した点は以下のようなところです。
・戦略とは「アクションリスト」ではない
・戦略とは「テンプレート」ではない
・ベストプラクティスの模倣は、かえって競争力を削ぐ(ただし、文脈による)
また本書で一番秀逸と思われる議論は「キラーパス」についてですが、キラーパスには模倣不能ということを超えて模倣回避を促す要素があるという点は非常にエキサイティングです。競争戦略上のキラーパスってなによ?という肝心の点ですが、ぜひ本書をご覧下さい。

500ページを超える大作ですが、著者の好奇心と探求はまだまだ続きそう(若い・・)なので、次回作にも期待したいと思います。個人的には、ケース・スタディをもっと読んで、この競争戦略論の妥当性や適用可能性についてもっと知りたい、という気持ちがあります。他方、これらの本で取り上げられた企業がもし競争優位を失っていく、失ったとすればそれはどういう過程を辿ってかという事例もぜひ読んでみたいと思います。

内容は真面目な本ですが著者の砕けた表現が随所に出てくるので読みやすさもあり(評価は分かれると思いますが、論文ではないので個人的にOKだと感じました)、かたい本はちょっとな、と思われる方にも随分とお勧めできます。

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