2011年2月11日金曜日

第2回:「冬の喝采」黒木 亮

レーティング:★★★★☆☆☆

黒木亮は好きな作家の一人で、特に金融ネタの長編はすば抜けて面白い。事実、作者の本の多くはその類の本であり、その意味からして本書は相当に異色のものである。内容は、作者の陸上競技人生(中学から大学卒業まで)を中心にした青春の物語。いかに一人の青年が陸上に出会い、のめりこみ、その過程で高揚、失望、離別や出会いを体験していくか淡々とした筆致で描かれている。

全体を貫くテーマは真摯なもので、一つのことに打ち込むこと(うちこむといった生易しい言葉では決してすまされないのみりこみ様であるが)、それを通じて学べること、一生懸命やって酸いも甘いも味わいつくすことなどに加えて出生と家族も大きなテーマになっている。

1月、長時間飛行機に乗る機会があり、機内に入る前に成田空港の良く行く本屋で上下(文庫)を購入。それからやや忙しくなったのもあるが、結局、読了までちょうど1カ月かかった。特に上巻を終えたあたりで1週間程度手が伸びず(第1回の本を併読していたのもあるが)、そこまで夢中に読めなかった。

なぜ夢中で読めなかったかといえば、おそらく陸上競技人生の記録的要素が多すぎることと陸上競技以外のっ描写が乏しすぎたことだろう。前者について言えば、練習内容の記録や一カ月走ったキロ数などが延々と、そして繰り返し記載される。自伝的小説というにはなにか日記の転載のような感じを受けた。後者について言えば、意識的だとは思うが高校・大学の勉強、恋愛、アルバイトなどの記述を極力減らしているように見える。そこが一人の人間の成長ストーリーとして広がりを欠き、すこし共感が難しかった原因かもしれない。

この小説は誰に向けてかかれたものだろうか、と考える。私はこれは作者自身に、そして両親(二つの)に向けて書かれたものである気がしてならない。その意味では、一般的な読者の一人であろう私が共感できようができまいがあまり大事なことではないかもしれない。この作品は、(少なくとも)作者にとってはすごく大きな意味がある作品だったのだろうと感じる。

陸上等なにか運動に青春を捧げた人、そういう人に興味がある人、箱根駅伝に興味がある人、北海道出身の人などは読まれると強く共感されるかもしれないと思う。

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