2011年3月5日土曜日

第5回:「会社は頭から腐る」冨山 和彦

レーティング:★★★★★☆☆

耳が痛い本でした。著者は、著名なコンサルタントであり、元産業再生機構COO。現在は経営共創基盤CEOとして活躍されています。名前を目にしたり、著作等を読んだ方も多いかもしれません。JALの関係でも一時期メディアから大きく取り上げられました。本作は2007年7月に出版されており、私は当時居た部署の同僚から、最近こういう本を読んで・・・と話を聞いて以来、いつか読みたい(それにしても3年以上それから経ってしまっているのは情けないものがありますが)と思っていたものです。

内容は、著者が産業再生機構、そしてその前に社長を務めていたCDIという会社を通じて得た企業再生、コンサルティングの現場から感じたことを綴ったものです。著者は、東大大学中に司法試験をパス、外資系コンサルティング会社を経て共同で起業、その後同社の社長となり、産業再生機構に請われて行きます(あとスタンフォードでMBAも)。一見、バリバリ・キレキレ系のキャリアであり、数式やエレガントな競争戦略論満載の本を出しそうですが、(体験を踏まえた)泥臭い経営論を書いています。優れた経営人材はガチンコの勝負からしか生まれない、だめな会社はまず「頭から」腐る、ということを繰り返します。大企業や安定した企業内での経験というのは、(これはさすがに場合によると思いますが)会社がつぶれるわけでもなく、個人として連帯保証を銀行に差し入れて破産するわけでもなく、所詮「ごっこ」に過ぎないと言い切ります。人によっては、根性論も多分に入った本なので拒否反応があるかもしれませんが、どの主張も極めてロジカルに展開されており、また経験に裏打ちされているのですっと納得できるものです。キャリアから来るイメージと内容の泥臭さが大きなミスマッチですが、それをつなぐロジックの太さが、この本の面白さであるように思えます。

冒頭の耳が痛いというのは、著者の主張の一つ、とにかくガチンコ勝負をしろという点です。「恵まれていること」と「ガチンコ勝負の欠如」は軌を一にしているということが繰り返し語られており、高度成長期の遺産が(だいぶ減ったとはいえ)まだ有る日本企業では、ガチンコ勝負する必要自体がなかったということも触れられていますが、私も日々ガチンコにさらされているわけではなく、身につまされます。耳が痛い本を読むと、この著者はちょっと変わった人だなとか、そんなガチンコ勝負してるやつの方がむしろ少ない、と否定的なドライブが入りがちですが、ここは真摯に受け止めたいと思います。

感心した点としては、一般的な会社における経営層、ミドル、現場の各層に働くインセンティブがどれほど大きく異なり、また影響を持っているかについて描写している点、会社員とは弱く・流されるものであるという前提に立っている点など、会社(員)心理への理解も十分に示されているところで、まったくもって頭でっかちではなく、あくまで現実における葛藤の中から生まれてきている点です。(そういう意味では第1回でレビューした「ストーリーとしての競争戦略」と好対照です。もちろん主眼が違うのでだからどちらかがダメということには全くなりません。)

著者の本を読むのは初めてですが、もう一冊手元にあるのでそちらも近々レビューしたいと思います。産業再生機構の実務的な活動に興味がある方は、去年読んだのですが「事業再生の実践(第1~3巻)」産業再生機構も読まれることをお勧めします。こちらは至極実践的なものですが、この本と合わせ読むと事業と財務の一体再生といった産業再生機構の手法の多くが、(COOだったので当然ですが)著者の経験や信念、そして仕事のやり方から来ていることが分かります。

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