2019年3月18日月曜日

第210回:「花実のない森」松本 清張

レーティング:★★★★★★☆

今ハマっている光文社の松本清張プレミアム・ミステリーの一作です。1964年に刊行された一冊であり、昭和39年の作品です。始まり方はとてもユニークで、やっとこさ買った車でドライブを楽しんだ若者が、あるカップルをヒッチハイクで乗せ・・というものです。現代風に言えば、美女と野獣といったその二人に運転手はなぜかひっかかり、さらにはその女性に深く気を取られていくことになります。

これだけだとただの恋愛ものかストーカーもの見たいですが、ストーリーは思わぬ方向に動いていきます。考えてみると松本さんのミステリーは、善悪を超えて強く好奇心に突き動かされていく執念を持った男性が描かれていますが、知らぬ間に著者は自身を主人公に投影していたのではないでしょうか。それは一般的に見れば異常なほどの情熱ですが、その本人にとっては仕事やある時は人生をも左右してかまわないと思う切実な好奇心です。

本作の面白さは万葉集がキーワードとして随所に出てくるところです。百人一首もいいですが、私も万葉集の方が庶民の喜び、悲哀が聞こえる様で好きです。作品としてはずっと素朴ではありますが、そこにリアリティがあると思います。知りませんでしたが、松本さんは万葉集の大ファンだったそうで、関連する作品もあるそうですので、それはそれで読んでみたいところです。ちなみに本作も地方が終わりの方に出てきます。とても面白いです。

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