2016年11月9日水曜日

第158回:「雷の波濤ー満州国演義7」船戸 与一

レーティング:★★★★★★☆

本作はやや時間が掛かってしまいました。1冊500ページ弱あるので、この第7巻までで3400ページくらい読んできた計算になります。読むだけでもこれだけかかるわけで、船戸さんがどれだけの資料を読み、取材をして気の遠くなるような蓄積をもって書かれたかを考えると頭が下がりますし、著者の作家人生を賭けた作品だということが分かります。今回は1940年、昭和15年、皇紀2600年からスタートし、開戦間もない1942年の初頭までがカバーされます。

本作では孤立主義を守りながらも国内の大不況に喘ぐ米国、戦略的に日本への圧力を掛けていきます。日本は日本で近衛内閣が混迷を極め、三国同盟に足かせを嵌められ、にっちもさっちもいかないまま資源を求めて南進を始めます。ここからは歴史でもよく習うわけですが、ハルノート、真珠湾攻撃、電撃的な南進、シンガポール陥落と進んでいきます。恐ろしいことですが日本も米国も国民は開戦を熱狂的な気持ちで迎え、総力戦にのめり込んでいきます。1点、今の時代が決定的に違うのは、ベトナム戦争の映像のようにある程度メディアや情報ツールが発展し、リアルタイムにいろいろな情報が入ることかと思います。当時、前線のつぶさな詳細が分かっていればという気はしますが、全面的な情報管制の中では望むらくもありません。

敷島兄弟はというと太郎は相変わらずなすすべもなく満州にとどまり、瓦解していく日本外交を外から眺めていきます。戦争と軌を一にして太郎の私生活も崩壊していき、あれだけ幸せであった家族に暗い影を落とし始めます。次郎は相変わらずの流浪を重ねながらも、意識しないままに特務から引き受けた裏の仕事を重ね、インド国民軍と関係を持ったり、シンガポールにまで足を延ばしていきます。三郎は相変わらずエリート憲兵として活動をしていますが、いわば憲兵のエースとして南進に同行することとなります。そして義兄を悲劇が襲います。四郎は相変わらず国策映画会社で羽ばたけない日々を送ります。

全体的に4兄弟は奇妙な安定を手にしている一冊で、残りの2巻でどういう展開になるのか今から大変気になります。

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