2015年8月3日月曜日

第121回:「村上海賊の娘(上)(下)」和田 竜

レーティング:★★★★★★☆

図書館で昨年予約してからほぼ1年待ったでしょうか。区全体ですが、なんと1,000人近くが先に予約を入れており、(複数冊あるので)1年近くで手元に届きました。数年かかるかと思っていたので、その意味ではかなり早いでしょうか。『のぼうの城』などで有名な著者ですが、これもまた不覚にも一度も読んだことがなかったのです。

結論から言うと、(上)巻ではなかなか文体や描写のあっさりとした感じ、妙にしつこくて残酷な戦闘描写にやや閉口する感があり、個人的には相当低い評価をしていました。しかし・・・(下)巻に読み進めていくにつれて不思議なものでキャラクターが生き生きと動き出し、絡み合い、壮大なフィナーレに向かっていくその技量に随分驚き、最後の方ではすっかり主人公のファンになってしまう始末でした。イメージとしてはかなり軽いテンポでさくさく進んでいき、相当漫画チックな展開をします。これは著者が元々脚本だということに起因するものと思われ、色々と話題の百田尚樹さんの本ととても近い感じです。

しかし僭越ながら高く評価したいと思うのはこの題材の選び方です。基本的には毛利家、村上海賊、本願寺の顕如、鈴木孫一あたりがメインで出てきますが、渋い木津川合戦をテーマとしており、資料が少ないであろう海賊や海戦を主題に据えています。陸の物語、信長や秀吉、家康から見た歴史は多数ありますが、本作品は信長の敵であった本願寺の更にその支援をせんとする者の視点から描かれており、さらに海賊らしい風習や考え方が随所に表れてきます。

テンポが良くどんどん読み進めることが可能で、しかしながら独自の視点から歴史を活写している本作品は文章全体の粗さや会話の単調さを勘案してもとても面白いエンターテイメントと言えると思います。戦国モノが好きな方にはぜひお勧めです。

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