2015年8月22日土曜日

第122回:「流星ワゴン」重松 清

レーティング:★★★★★★★

今年ドラマ化された一冊なので、タイトルを聞いたことがある方、ドラマは見たという方も多いのではないでしょうか。有名な重松さんの一冊であり、遅ればせながら読みました。実は高い評判を聞いていながら重松さんの作品を読むのは初でした。きっかけはドラマが面白いと聞いて何話か断片的にみたことです。香川 照之さんが出てるということでみたのですが、正直前提知識ゼロで設定の意味がよくわからず、やめてしまいました。しかしあの不思議な設定は何なんだろうということが気になり読んでみました。

読んでの感想ですが、これは反則だろうというものです。テーマは一読して分かるとおり父と子(とりわけ息子)です。男性、特に30~40代で自分に息子が居る方にはぐっと身につまされる本ではないでしょうか。正直読み進むのが辛いところが何度もあります。世代、生と死、運命といったものをまざまざと提示してきます。父親と息子の関係はとてもとらえどころがなく、微妙な感じです(母親と娘も違った意味でそうだと思いますが)。わが身を振り返っても解説で見事に書かれているように接している総時間数が圧倒的に足りない気がしましたし、コミュニケーションが(一般的な話ですが)やや両方とも下手だったりするので、ますます疎遠になりがちです。

本書の秀逸なところは単に親子関係を描写するだけではなく、死者の視線を通してこの世界を描くことで、逆説的に生きること、一生懸命生きることについて描いていくところです。そしてそれを可能にする車がワゴンになるのですが、このワゴンに関する下りは何度も泣けるところがでるので公共交通機関では読めません。本書はいわゆるお涙ちょうだいではないのですが、切実な叫びを沢山含んでおり、とてもよい意味で文学的ですし映画的でもあります。

日ごろ見過ごしていること、聞き流していること、なんでもないと思っている時間、父の、息子の目線に立って考えること、そういう凡庸ですが大事なことを思い出させられ、大げさに言えば日々を大切に生きていかないといけないと思われられる一冊です。とてもよい一冊で、お父さん世代はもちろんのことで10代、20代の方にもぜひ読んでいただきたいと思います。

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