2014年11月3日月曜日

第103回:「空飛ぶタイヤ」池井戸 潤

レーティング:★★★★★★☆

読書の秋、なのですが中々読書が進みません。しかし、レビューに挙げてないだけで読了しているものが本書以外に一冊あるので、まあまあ悪くないペースかもしれません。皆さんは読書の秋、いかがでしょうか。最近思うのは、ずっと昔は電車の中で漫画を読んでる人、本を読んでいる人、携帯(ガラケー)を見ている人などが分散していたのですが、今は殆どの人がスマホを見ている人になっていることです。自分も結構そうなっているときがあるのですが改めてみると結構びびる光景です。スマホに浸食されて、日本人の読書本数というのは(元々減少しているところ)更に減っているのではないでしょうか。ちなみに日本だけかと思いきや、海外でも正直言って余り変わらない光景を見ますので、グローバルな現象なのかもしれません。

さて、標題の一冊は2000年代に起きた某自動車メーカーにおけるトラックのリコール隠しを題材にしたものです。実際の事故(事件)、それも社会的に大きな反響を読んだものを下敷きにしており、更に登場するメーカー及び同系列の銀行が日本最大の財閥を露骨にイメージさせるものなので、著者の勇気は先ず凄いなと思いました。なかなかタブーとは言いませんが、ここまで批判的に小説として再構築できる覚悟も力量も凄まじいものがあります。ちなみにWikiによれば、さすがにスポンサーとの兼ね合いからか民法では放送できず、WOWOWでドラマ化して高い評価を受けたそうです。ぜひ読んで頂きたい秀作です。

末尾についている大沢在昌さんの解説が秀逸なので読んで頂きたいのですが、自分として凄いと思った点を。まず上に書いたとおり、著者のプロ小説家として覚悟を固めた批判的記述に凄味があります。そこまで?という程に日本の一流というものへの批判を繰り広げます。これがどれだけあっているのかは密接に接したことに無い私にはよく分かりませんが、著者は元々小説家になる前に内部にこの財閥に所属していたはずなので色々と思う時があるのかもしれません。次に小説家として、無駄もムラもない描写が本当に上手いと感じました。上下(文庫)で900ページほどあったと思いますが、だれることなく、かといって飛ばし過ぎでわけがわからなくなることもありません。初期の村上龍さんはここらへんのコンパクトで情感豊かな描写が特徴でしたが、遜色ないレベルで筆が進んでいきます。三つ目には、よく人物が描かれていて、更に会社や個人の欲、組織の病理に切り込みつつ、人はどうあるべきかということも不合理に生きる多くの人間を出しながら考えさせられるところです。

エンタメ寄りな作家なのかと失礼なとらえ方をしていましたが、時代が変わっても心を打つ、また2000年代の日本の経済や経済事件ということを知るうえ手も非常に優れた作品と思われ、6つ星としていますが、気分的には6.5くらい献上してもよいのではと思う力作でした。著者の他の作品も読んでみようと思います。

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