2012年3月20日火曜日

第39回:「苦役列車」西村 賢太

レーティング:★★★★★★☆

第144回芥川賞受賞作です。作家をひそかに志す日雇労働者が主人公となっていますが、私小説的な要素が多分にあり、多くの部分が実体験に基づいているということです。なかなか読んだことのない、重苦しいようなあっけらかんとした、不幸だけど希望があるような不思議な小説です。そして昨今はあまりお目にかかれない濃密な主人公の吐露が続き、時折息苦しさを覚えます。

暗いばかりの小説ではなく、主人公が大正期などの文学を実は読み漁っていて、随分と私小説に情熱を燃やしており、それが現実の世界で生きることの大きな支えになっているという熱く、前向きな部分も感じられます。また文体も秀逸で、どこでこんなのを覚えたのかという難解な漢字が良く出てきて、文末が意識的に「る」と「た」で揃えられ、リズムを生み出すように続いていきます。

さらけだすことについてこれだけ意欲を持った作家は昨今いなかったように思え、高い評価にしました。ちなみに表題作の最後の1パラは文字通り痺れます。また単行本に同時に収められている『落ちぶれて袖に涙のふりかかる』も良い味出してますので、ぜひご一読ください。

0 件のコメント:

コメントを投稿