2011年10月23日日曜日

第26回:「こころと人生」河合 隼雄

レーティング:★★★★☆☆☆

私が河合先生のことを知ったきっかけは、村上春樹との対談本を読んだことでした。心理学自体には高校時代にも興味があり、個人的な話ですが真剣に文学部に進んで心理学をやろうかどうか考えた覚えがあります。それから心理学への興味はだいぶ落ちたのですが、また、この対談本を読み、その後海外で心理学や心理学的なアプローチにそれなりに触れる機会があり、ちょっと先生の本をちゃんと読んでみようと思いました。なお、ご案内のとおりですが、先生は2007年に亡くなられてしまいました。

河合先生は、スイスのチューリッヒにあるユング研究所にて、日本人初のユング派分析家として認定され、その後、京都大学等で教鞭をとったり、文化庁長官を務めたりしました。著作は本当に多く、細かなものまで含めたら何冊あるのか想像もできませんが、本書は非常に軽い(基本的には講演/講義の記録)というか読みやすい本であり、学術的なものは前面に出さず、身近な話題や実例を取った本です。

面白いのは、タイトルに「人生」とあるように、子供、青年期、中年、老いといった形で人生の各ステージにおける心理の動きや軋轢を取り上げている点です。たとえば私の年であれば子供や青年時代を思い出しながら読みつつ、中年と老いを読んで、うーむと考える(もしくは親を思い出す)こともあり、どのセクションもそれなりに関心を持って読めることが特徴かと思います。

深い話もあれば、新書のハウツーに出てきそうなアドバイスもあるのですが(別に悪い意味ではなく)、特徴としては全てを肯定的にまず受け止めるという視点が秀逸だと思います。カウンセラーとしては当たり前の態度なのだと思いますが、子供の非行、青年期の無力感、中年期の危機などをいずれも理由があったり、なかったりするけど、まずはそれをどっかりと受け止めて、ぼちぼち考えていきましょうという態度で語られており、そのこと自体が相談者にとって大いなる一歩になったのだろうと考えます。

まずは軽めに先生の世界にアプローチするには、良著だと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿