2011年10月20日木曜日

第25回:「武器よさらば」ヘミングウェイ

レーティング:★★★★★★★

本を読む場合に、目的別に幾つかの系統があるのですが、これは自分の中では「過去の名作を読んでみよう」というシリーズです。名だたる内外の名作は世の中に沢山あるわけですが、それらをちょっとずつ時間はかかるにせよ読んでいくというのが、個人的にはかなり大切なライフワークになっています。今回は、名作として押しも押されぬヘミングウェイの「武器よさらば」です。

ヘミングウェイは、解説が不要なほど有名であり、私も名前や主要な作品のタイトルは知っていたのですが、たとえば開高 健が尊敬していた作家である、とか、最後は猟銃自殺した(本書の年表でヘミングウェイの父も同じ方法で自殺していたことを知りました)といったサイド情報だけが頭にありつつ、一作も読んだことがありませんでした。そんなこんなで、近所の相当に貧弱な品ぞろえの本屋に(も!)、置いてあったので購入してきた次第です。

内容は第一次世界大戦、舞台はイタリア北部戦線、主人公はアメリカ人(ただしイタリア軍に従軍)という舞台設定です。比較的クールに戦争の描写が進んでいきますが、そのクールさの中に生々しい痛みが含まれており、読んでいて辛く感じることもあります。また、出てくる女性たちは一途な中にも危うさを醸し出している人が多く、多かれ少なかれ戦争が登場人物たちに深く影響を与えていることが暗示されます。

あまり書いてしまっては面白くないのですが、秀逸なのはボートでスイス行きを試みる場面であり、ここは正直どうなるのかとはらはらします。また、最後はかなり意外な終わり方でした。主題は幾つかあるのだと思いますが、解説にこれは「戦争というものが本質的に孕む悪」を描いているということが書いてありますが、私はかなり違う印象を受けました。もちろん徹頭徹尾、戦争なしには成り立たない小説なのですが、それよりもどうしようもなく転げ落ちてしまうこともある人生、といったものや逃避行と幸せにはならない(ことが結果的には約束されている)恋愛といったことが描きたかったのではないかと思えて仕方ありません。

ここらへんは感じ方の問題だと思いますが。いずれにせよ、間違いなしの一級品であり、その文章の無駄のなさ、構成の頑丈さにしびれる作品でした。

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