2011年5月7日土曜日

第12回:「獅子のごとく」黒木 亮

レーティング:★★★★★☆☆

本ブログでおなじみの黒木氏の新刊(といっても2010年11月初版・・)です。実在する人物をモチーフにしながら、虚実織り交ぜてストーリーが進行していく点は黒木氏の作品「巨大投資銀行」とほぼ同様ですが、本作はより「どぎつい」描写や批判的なスタンスが多く出てくるので、黒木氏はかなり慎重に筆を進めたのではないかと推察します。

レーティングがかなり高い理由は、以下のものです。まず、(架空の点が後半中心に多いとしても)ある強烈な人物の一代記として、純粋にストーリーが面白い点が挙げられます。主人公は家族や家業の関係で苦汁を舐めるのですが、それらをバネに猛烈な仕事ジャンキーとなっていきます。それが自身や家族、会社ひいては社会にもたらす正負の影響が比較的バランスよく描かれています(単に批判的なだけではない)。黒木氏は、MSN産経ニュースのインタビューで「(主人公にも)“痛み”があって、本当に悪役なのかどうかは、よく分からないんだけど」と語っており、二元論的に正邪を描こうとしているわけではないことを認めています。

次に、最初の点の補強になりますが、登場人物の人間性の変化が良く描けていると思います。仕事を通じて、成功したり、お金を持ったり、またその逆になる人が多数出てきますが、そこで各人は様々な変化を遂げます。作中では、人間性や仕事へのスタンスを曲げたくなくて主人公(及びその会社)から離れるもの、徹底的に人間性を捨て仕事に過剰適応していくもの、仕事にのめり込むあまり当初謙虚であったのに勝負の構図でしか人生をとらえられなくなる人など、様々なパターンが示されます。(言うまでもなく)どれが良い悪いというよりは、どういったモデルをベースに自分の生き方を選ぶのか、という問いかけに思えました。

最後に、投資銀行の内実(特にモデルとなった米系IB)の一端が垣間見られます。上記の「巨大投資銀行」はマーケット/トレーディング部門の視点から描かれていましたが、本作ではいわゆる投資銀行部(門)をメインの舞台としていますので、M&A、債券、株式、その他金融商品などが幅広く出てきて、投資銀行部がどういRM機能を果たしているか触れることができるため、投資銀行に就職したい学生さんなどにも良いのではないかと思います。

主人公の仕事に賭ける執念や熱気がみなぎった作品で、引くと同時に惹かれる点もある不思議なストーリーでした。主人公の過剰ともいえる接待、人脈作りなど寝技系の仕事獲得方法が多く描写されていますが、いうまでもなくそれを支えた多くの部下の方々の(プッシュされたが故もあるでしょうが)優れたプロポーザルや的確なエグゼキューションがあって仕事が獲得できてきた部分も多いはずであり、そこにもより言及があると更によかったかなあと思いました。いずれにせよ読み応えのある作品でした。

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