2019年4月7日日曜日

第212回:「地の指」松本 清張

レーティング:★★★★★☆☆

文庫版で上下巻の大作です。昭和中期の都議会議員、都職員、私立病院、業界誌記者、タクシー運転手、そして警察が複雑に絡み合う本格的なミステリーです。スタートは業界紙記者からですが、だんだんと官民の汚職の構造が見えてくるものの、病院という強い守秘の鎧に守られて、なかなか真相が明らかになりません。そんな中で各社の思惑が交錯する中で更なる犯罪が積み重なってきます。偶発的な事件もあり、考え抜かれた証拠隠滅もあり、とても練られたストーリーです。

今作が松本さんの作品群の中で特徴的なのは、警察の視点で語られる部分が多いことで、特に下巻はほとんどが警官の視点となります。その仮説を立てながら追い詰めていく様はとてもスリリングで、思わず自分も犯人を追っているかのような錯覚に陥ります。ネタバレになるので、ほとんど中身を掛けないところが悔しいところですが、社会的なサスペンスの要素もあり、著者が強いメッセージを込めていることが分かります。そして、昭和中期の社会の独特の悲哀も感じられます。三丁目の夕日的なバラ色の世界ではなく、いつの時代もそれなりの裏面があるということがよくわかります。

松本さんを代表する一作といえるのではないでしょうか。

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